師走と来年の選挙が間近に迫り、慌ただしい毎日です。
行事と行事の間、空いた時間は、本屋に居ます。
思わず手に取ったのが渡辺一史著「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」です。
私は、母校・日本福祉大学のゼミで障害者福祉を学びました。
今年一番衝撃を受けた本は藤井克徳著「わたしを最後にして ナチスの障害者虐殺と優生思想」でした。
この本も筋ジストロフィー症を抱えた鹿野靖明さんと鹿野さんを支えたボランティアの物語です。
この本の解説で脚本家の山田太一さんが、原作者である渡辺一史さんが尊厳死について語った次の言葉を紹介しています。
「尊厳死を認める社会的な背景には『自分のことが自分で出来ないような生き方には、尊厳がない』とか『家族に迷惑をかけたくない』とか『ウンチやオシッコを人にとってもらうなんて情けない』とか、そういう些細な価値観に支配されている部分がとても大きいと思うんです。でも『人に迷惑をかけない生き方』が、じゃあ尊厳のある生き方なのかというと、ぼくは鹿野さんを見ていたからでしょうけど、とてもそうは言い切れないという気がするんです。」
私は、この解説を読んで、この本を持ってレジに向かいました。
鹿野さんは、介助ノートにこう書いています。「今の世の中は、人間関係がものすごく希薄です。みんな自分本位です。そんな中、障害者を助けることやボランティアという行為は人類が生き残るための最後の手段だと思います。人に助けを求めるのは少しも悪いことじゃないのです。私はどんなことをしても生きたい、また生きていくことでしょう。日本の福祉を変えたいんです。」
私は、この文章を読んで、山際寿一さんの「ゴリラからの警告 人間社会、ここがおかしい」を想起しました。
「けんかの種となる食物を分け合い、仲よく向かい合って食べるなんて、サルから見たらとんでもない行為である。なぜこんなことに人間はわざわざ時間をかけるるのだろう。それは、相手と競合しそうな食物をあえて間に置き、けんかをせずに平和な関係であることを前提にして、食べる行為を同調させることが大切なのだ。同じ物をいっしょに食べることによって、ともに生きようとする実感がわいてくる。それが信頼する気持ち、ともに歩もうとする気持ちを生みだすのだと思う。ところが、近年の技術はこのような人間的な食事の時間を短縮させ、個食を増加させて社会関係の構築を妨げているように見える。自分の好きなものを好きな時間と場所で好きなように食べるには、むしろ相手がいないほうがいい。そう考える人が増えているのではないだろうか。でも、それは私たちがこれまで食事によって育んできた共感能力や連帯能力を低下させる。個人の利益だけを追求する気持ちが強まり、仲間のために何かをしてあげたいという心が弱くなる。勝ち負けが気になり、勝ち馬に乗ろうとする傾向が強まって、自分に都合のいい仲間を求めるようになる。つまり、現代の私たちはサルの社会に似た閉鎖的な個人主義社会をつくろうとしているように見えるのだ。」
山際さんと同じ疑問を鹿野さんは抱き、変えようとして発言しているのだと感じました。
鹿野さんの周りにいは、福祉や医療系の学生がボランティアとして集まっていました。
渡辺さんはこう書いています。
「鹿野がきびきびした声で、自分のカラダと医療的ケアの注意点について解説を始める。たまたまこのときの研修には、看護学校生や医大生、福祉系学生と、専門家の卵が多かったのだ、彼らにしてみれば、まさに鹿野に無料で教わる、という形になるわけだ。むしろ感謝されるのは、鹿野の方だということになる。そのことに、うまく言えないが、小さな衝撃を受けていた。つまり、この場所では、鹿野はまったく『弱者』ではないことになる。このときが、『~できない』と『~できる』をめぐり、なんというか、頭の中がねじれるようなややこしさを覚えた、最初の体験だったのである。」
実に興味深い文章です。
この本は、講談社ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞をダブル受賞しました。
そして、12月28日から、この本を原作にした映画が全国で上映されます。
鹿野さんは、北海道札幌市で生活した方です。
舞台が北海道なら主演は大泉洋さんで決まりです。
鹿野さんの役を大泉さんが演じます。
北海道が舞台で大泉洋さんが主演の映画と言えば、シリーズ化されている「探偵はバーにいる」が有名です。
真逆と言っていい役を大泉さんが演じます。
いや真逆ではないかも知れませんね。破天荒な主人公は共通しているのかも知れません。
宇部市でも上映されます。是非、観に行きたいと思います。
原作も引き続き、読み進めたいと思います。
「こんな夜更けにバナナかよ」を読まれた皆さん、感想をお聞かせ下さい。
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