黒澤明DVDコレクション③は「赤ひげ」です。
「用心棒」「七人の侍」もよかったですが、「赤ひげ」は、これまでの中で、私にとって心に残る作品でした
「赤ひげ」は、小石川養生所に見習いとして赴任した保本登の成長を描いた物語です。
極貧の患者に真正面から向き合う所長の新出去定(赤ひげ)。その姿を見て登は心を入れ替えていきます。
前半部分で、赤ひげが医者の役割についてこのように述べるシーンがあります。
「現在、われわれに出来ることは、貧困と無知に対するたたかいだ」「これまで政治が貧困と無知に対してなにかしたことがあるか、人間を貧困と無知のままにして置いてはならなぬ、と云う法令が一度でも出たことがあるか」「貧困と無知さえなんとかできれば、病気の大半は起らずにすむんだ、いや、病気のかげには、何時も人間のおそろしい不幸がかくれている」
この言葉は、現代にも当てはまると思います。
一つ違うのは、今日、「人間を貧困と無知のままにして置いてはならぬ、と云う法令」が憲法に書かれてあるということです。
憲法25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
憲法26条「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべての国民は、法律の定めるところにより、その保障する子女に普通教育を享けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」
近年、政府は、社会保障や公教育の国の責任を放棄する方向に動いていると感じます。
その結果、日本の貧困は拡大しています。
具体例が、志位和夫委員長が指摘した貧困ラインの低下です。
所得順に全国民を並べたときに、真ん中にくる人の額(中央値)の2分の1が「貧困ライン」です。
1999年157万だったものが、2014年133万となっています。
国民の所得が減っている。つまり貧困が進化していることは明瞭です。
にも関わらず、安倍首相は、相対的貧困率の低下だけ見て、「貧困は悪化していない」とし、新年度予算で生活保護制度の生活扶助を5%切り下げようとしています。
今日の政治状況に対して赤ひげは再び「政治が貧困と無知に対してなにかしたことがあるか」と叱責するでしょう。
憲法25条と26条を政治に生かすことが今もとめられており、その憲法を変えることをもってのほかだと「赤ひげ」を観て感じました。
登は、長崎で医学の勉強をして、幕府の医師になることを目指していました。
しかし、赤ひげの生き方を通して医師とは何かを考え続けた結果、映画のラストで、「養生所に残る」道を選びます。
3時間という、今日では二巻分の映画ですが、観終わったあと、爽快感が全身を満たしてくれる作品でした。
私は大学でセツルメント活動をしていました。「貧困問題」と格闘する大学生活でした。
その経験が私のその後の生き方を決めました。
私が歩んできた人生を振り返りながら、「赤ひげ」は、大いに励まされる作品でした。
これからもこの道を生きていこうと新たな気持ちにさせてくれる作品でした。
次回は、「椿三十郎」です。引き続き、黒澤作品から様々なことを学んでいきたいと思います。
皆さんの好きな黒澤作品をお教え下さい。
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