金時鐘さんの「朝鮮と日本に生きる-済州島から猪飼野へ」を読んでいます。
この本は、第42回大佛次郎賞を受賞した作品です。
金さんの波乱万丈の人生を振り返る自叙伝です。
私も過去に自叙伝を何冊か読んできましたが、現存する方で、これほどの激動の時代を経た方で、これだけのすばらしい日本語で書かれた作品は稀有なものだと痛感しました。
金さんは、日本統治下の済州島で育ちます。天皇を崇拝する典型的な皇国少年だったと金さんは幼少期を振り返ります。
1945年の「解放」を機に朝鮮人として1948年済州島4.3事件を経験し、来日し、猪飼野で生活する金さん。
日本統治下の朝鮮で、日本語の統制がどのように行われていたか、金さんの幼少期を綴った文章で明らかにされています。
ある朝、校長先生が、校庭に落ちていた縄跳び用の荒縄を指さし金さんに尋ねます。
「これはおまえが落としたんだろう?」
金さんは、「身の覚えのないことだったので、私は憶することなくはっきりと否定したのですが、その否定の仕方が習慣づいている自分の国の、言葉の仕組みでの答えだったです。」と書いています。
「『違います』と答えたんですが、とたんに目も眩むばかりのびんたを横っ面に喰らいまして、朝礼が始まるまで平手打ちは続きました。」と金さん。
読者の皆さんで、校長先生はどのような答えを求めていたのかお分かりでしょうか。
答えは「いいえ」です。
金さんは、校長先生のこの対応を「朝鮮の子どもたちを天皇陛下の赤子にすることがこの子どもたちを幸福にすることだ、朝鮮を良くすることだと心底思って」いた上での発言を分析しています。
また金さんは、「いいえ」という言葉について「日本人のよく練られた、対人関係をこなしてゆく生活の知恵であるように思います。」「日本人の思考秩序の特性の一つとも言えます。」とも述べています。
金さんは、別の個所で「げい恐ろしきは教育の力です。」と書いています。
この事件を真相を金さん自身の筆でここまで深く描写されれば、ただただ「教育の恐ろしさ」を思い知らされるばかりです。
朝鮮と日本の近代史を知る上での良作。
金さんの一言一言をしっかり噛みしめながらこの本を読んでいこうと思います。
金さんから現代を生きていくための教訓を一つでも多く学んでいこうと思います。
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