知念実希人さんの「仮面病棟」を読みました。
知念さんは現役の医師。
現役の医師ならでは、医療サスペンスの秀作でした。
本格ミステリーとしても最後までハラハラドキドキさせて、約三日間で一気に読みました。
同時のこの小説は、社会派小説としても秀作だと思いました。
事件が起る病院は、療養型病院。この病院には不似合いな豪華な手術室。
この手術室では、身元不明の患者から臓器が取り出され、移植する手術が行われていたのです。
移植を受けた患者から高額の報酬を院長は得ていたのです。
貧困な人々の臓器が富める人々に移植されていたという事実が、この物語の根底に流れています。
私は、この本を読んで、宗教学者・島薗進さんの「いのちをつくってもいいですか?」という本で書かれてあることを想起しました。
この本には、「エンハンスメント」=「より強い、より有能な、より幸せな」人間を求める科学技術の在り方が書かれています。
その一つの見方として、アメリカのブッシュ大統領時代の2003年に「治療を超えて」と題された報告書の内容が紹介されています。
「治療を超えて」では4つのテーマでエンハンスメントに潜んでいる問題点が書かれています。
一つ目は、「より望ましい子ども」を選び育てるこということ。具体的には、「子供の性別を選ぶ」ことと「生まれてくるいのちの選択」に関わることです。この中には、「子どものふるまいを改良する」ことも含まれています。
二つ目は、「優れたパフォーマンス」。スポーツにおける体力増強についてです。
三つ目は、「長寿を求める」というテーマです。
最後は、「心を変える」というテーマです。
島薗さんは、この本で「バイオテクノロジーを用いて人為的に『生』を拡大していくような医療のあり方は、そうした限界への自覚を見失わさせてしまうのではないでしょう。」と書いています。
アメリカの報告書「治療を超えて」の副題は「バイオテクノロジーと幸福の追求」です。
全ての人々の幸福が追求されるためのバイオテクノロジーであってほしいと思います。
一部の人々の犠牲の上にある一部の人の幸福の追求のためのバイオテクノロジーであってはならないことを知念さんはこの小説でミステリーという形式を使いながら読者に伝えたかったのではないかと思います。
「エンハンスメント」をどう考えたらいいのか、人類に突きつけられた大きな課題の一つだと思います。
その事を考えるきっかけとして知念さんの「仮面病棟」は最良の書であると私は思いました。
一気に知念ファンになり、昨日から「天久鷹央(あめくたかお)の推理カルテ」を読んでいます。
知念ファンの皆さん、お勧めの作品をご紹介下さい。
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