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香田洋二著「防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態」を読む

 元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)の香田洋二さんの「防衛省に告ぐ 元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態」の内、第二章の「イージスアショア問題が浮き彫りにした防衛省の独善」を読みました。例えば第7章「憲法改正は自衛隊の悲願」など本書の主張とは意見が違う点はありますが、イージスアショア計画が浮上して、可能な限り、現場に立ち、防衛省の説明を聴いてきたものとして、この本の第二章は、興味深いものでした。
 香田さんは、本書のはじめにこう書いています。
 「日本の防衛が抱える構造的欠陥が暴露したのは、2020年、政府が地上配備型弾道ミサイル迎撃システム『イージスアショア』の配備を断念し、イージスシステムを船舶(海上プラットホーム)に搭載する案に乗り換えたときだった。一連の過程では、国民に十分な説明を行わず、そして、防衛省内でも十分な検討もせず、行き当たりばったりで判断を下す体質が改めて明らかになったという現実だ。」
 イージスアショアに関し迎撃ミサイルSM3発射直後に切り離される加速用ロケットであるブースターが、市街地に落下するのではないかという疑問に、防衛省が「ブースターは演習場内か海上に落下させられる」と住民に当初説明しました。
 この説明に、香田さんは「防衛省がこんなとんでもない説明をしたのは、善意に解釈すれば『その時点での窮地を切り抜けるために根拠なく拙嗟に答えてしまった」のであり、悪く言えば『後先を考えずに現地の方を欺いた』ということになる。」と厳しく批判しています。
 防衛省は結局、「ブースターを制御するためには2000億円の追加費用が必要」などの理由で、2020年6月にイージスアショア断念を明らかにしました。
 同年12月には菅首相が、「イージスシステム搭載艦」2隻の運用という大胆案を示しました。
 イージスアショア断念からイージスシステム搭載艦へのプロセスについて香田さんは「驚くのはこの結論を出すまでの短さである。(中略)その根底にあるのが、国民に対する防衛省の責任感の欠如と、高価格・高性能装備を国民の前で一点の曇りなく説明し、導入を実現しようという防衛省の決意と覚悟の欠落であるように思えてならない。」とこれまた厳しく批判しています。 
 香田さんは、イージスシステム搭載艦のライフサイクルコストについて「2020年5月の『朝日新聞』によると、防衛省の資産ではイージスシステム搭載艦のライフサイクルコストは9000億円ちかくになったという。これに対し、イージスアショアのライフサイクルコストは2019年時点で約4400億円と見積られていたので、改修費2000億円を上乗せしても6400億円にとどまる。イージスシステム搭載艦のライフサイクルコストは1兆円以上に膨らむ可能性も指摘されている。このまま現在の事業を進める場合、原計画のイージスアショアと今のイージスシステム搭載艦の間で2倍程度の経費差が生じる恐れさえある。」とこれまた厳しく指摘しています。
 香田さんは、この章の最後に「多額の費用が追加で発生しても、要求して当然といわんばかりの態度でイージスシステム搭載艦事業を推進する防衛省。倫理観と責任感のかけらさえ感じられない。いまの防衛省は日本と日本国民を武力で守る自衛隊を監督する省としてふさいわしいのだろうか。問われているのはこの問題だ。」と痛烈に批判しています。
 2018年に防衛省が行ったイージスアショアに関する「第二回説明会資料24ページ」は、「我が国全域を防護する観点から、北と西にバランス良く2基を配置するためには、どのような場所にイージスアショアを配置するのが適当か数理的な分析を実施。結果、多くの地域を防護するためには日本海側に配置するのが適当か数理的な分析を実施。さらに分析を重ね、山口県付近と秋田県付近にイージスアショアを配置した場合、2基で最もバランス良く我が国全域を防護することが見込まれた」としました。
 そうなると、イージスシステム搭載艦の配置も、萩市沖と秋田市沖になるのではないかと、萩市の住民の不安は解消されていません。
 防衛省の有力なOBの香田さんからイージスシステム搭載艦についてこれほどまでの疑問が出されていることに防衛省は真摯に向き合い、計画を最初から見直すべきだと考えます。
 この問題に対する皆さんのご意見をお聞かせください。

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