14日、大分市美術館の「磯崎新の謎」展を視察する中で、菅館長から、磯崎新さんの初期の代表作である「大分県立図書館」が、紆余曲折の後、大分市立「アートプラザ」として蘇ったことをお聞きしました。
私は、大分市立美術館を視察後、磯崎新さんが手がけ、現在は、「アートプラザ」として蘇った建物を視察しました。
磯崎新さんの写真が飾られているアートプラザ
「アートプラザ」の3階に、「磯崎新建築展示室」があります。ここに、18個の建築模型が展示され、2階に10個、合計、国内外の28個の木造の建築模型が展示されています。1974年から2006年までの模型が展示されています。これだけでも大変な価値のあるものだと感じました。
大分市美術館のギャラリーに、大分県立大分図書館が「アートプラザ」としてどのようによみがえったのかを詳細に記した「建物が残った 近代建築の保存と転生」(岩波書店)という書籍があり、帰りの電車の中で、ほぼ読み切りました。
この本は、磯崎新さんご本人を含む建物の再生に関わった方々が執筆しておられます。
執筆当時、大分合同新聞社の論説委員だった浅間久さんの文章を中心に概略を紹介したいと思います。
県立図書館は、磯崎新さんの設計で、1966年に完成し、多くの方に親しまれてきました。また、磯崎新さんが国際的に活躍する中で、初期の重要な建築物の一つとして注目されてきました。
大分県は、新しい図書館を磯崎新さんの設計で、1995年に豊の国情報ライブラリーとして開館させます。
この過程で、磯崎さんが設計した県立図書館(以下旧図書館)の保存再生が問題となりました。
まず、1992年11月に日本建築学会から保存と活用を求める要望書が大分県に提出されました。
旧図書館は、1966年に日本建築学会賞を受賞しました。受賞理由は「一言でいえば、平面と構造と設備の見事な統合とその統合を踏まえながら大胆な手法でなされた力強い造型のずばらしい調和にある」とされています。
日本建築学会は要望書の最後に「このように芸術的・文化的価値の高いこの作品は永く後世に遺すべき建築であると評価する。その新たな用途に適したすぐれた保存・活用を願うしだいである。」と述べています。
1993年には、保存を求める建築関係者ら約50人が参加して、今後の活用などを検討する「現県立図書館を考える会」(以下考える会)が発足します。考える会は、北九州市などに多数ある磯崎新さんの建物を見学するツアーや磯崎新さんを招いてのレクチャーなどを行います。
同年11月には、米国イエール大学の学生44人の県立図書館保存と再利用を要望する署名が考える会に届き、公表されました。
県は、図書館を取り壊し女性センターを建設しようとしていました。
しかし、国内外の建築家や市民の運動があり、県が計画している女性センターの用地を市が提供し、県立図書館用地を市が取得し、耐震改修などを行い、市民芸術文化センターを設置することで決着しました。
その耐震工事は、磯崎新さんの設計をそもままにしてどのように行うのか大変な作業であったようです。
この本の後記に都市建築編集研究所の石堂威さんが次のように書いています。
「本書の副題は『近代建築の保存と転生』である。磯崎氏の文中にもあるように、この建物は氏にとって近代建築研究の卒業制作に等しいものであることからきている。しかしひと回り後の世代に属する私にとっては、建築における近代と現代を分け隔てる分水嶺に匹敵する、まさに現代建築として受け取ったのである。完成が1960年代の後半に入るこの建物について、多くの人は同じように見たのではないだろうか。近代建築の保存もまだままならない状況で、現代建築の範疇に入る建物の保存はさらに困難を極める。それゆえ無手勝流で保存を考える運動を起こした人々はとにかくやむにやまれぬ気持ちではじめたに違いない。とにかく、一陣の風が吹き抜け、道が開けた。大分県と大分市が1960年代の公共建築を市民運動の展開のなかで、互いの協力の下に『転生』への道筋を刻印したことは、これからの建築と都市を考える上で一つの(事件)として語り継がれる意味があろうと思われる。」
翻って、秋吉台国際芸術村です。今、芸術村の存続がかかった重大局面です。
芸術家が滞在して活動できる国際的な役割としての芸術村、世界的な評価を受けている磯崎新さんの重要な建築作品としての芸術村。
ぜひ、大分市での経験も参考にして、芸術村を存続させたいと思います。
磯崎さんの故郷・大分市の二つの施設を訪ねその事を痛感する視察となりました。
秋吉台国際芸術村に対する皆さんのご意見をお聞かせ下さい。
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