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伊澤理江著「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を読みました。是非、お読みください。

 21日のしんぶん赤旗日刊紙の「読書」のコーナーで、ジャーナリストの斎藤貴男さんが、伊澤理江著「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を次のように紹介しています。
 「ドスン。ドスッ。バキッ。乗組員たちは2度の強い衝撃と、異様な音を聞いたという。彼らはパラシュートアンカー(錨の一種)を下して碇泊し、やや不安だった海況の回復を待っていただけなのに。大量の海水が流れ込んでくる。一瞬のうちに転覆。投げ出された男たちは黒い油まみれになっていたー。2008年6月23日、午後1時半頃。福島県いわき市の漁船『第58寿和丸』が、房総は犬吠埼の東方沖約350キロメートル付近で沈没した。死者17人(乗組員20人)を出した海難事故の原因は『大きな波』だと、国の事故調査報告書は結論づけた。だが違う。波で船体が破損したのなら、当たり一面が燃料油で覆われたという生存者らの証言はあり得ない。気鋭のジャーナリストが真相を追った。波でなければ氷山か、鯨か。最後に残った可能性が『潜水艦』だった。関係者に会い、資料を読み込み、考え抜き、情報公開請求を重ねて、専門家の意見を求め・・・と、著者はあらゆる手段を尽くして取材を進める。潜水艦だとすると、それは自衛隊か、米軍、それとも韓国、ロシア、あるいは中国の軍隊なのか。事故当時の海上自衛隊潜水艦司令官だった人物と対峙するシーンが圧巻だ。米海軍と自衛隊との関係は、一般的に考えられているような『一心同体』なんてものではまったくないと、彼は語ったそうである。全容の解明には、今しばらく時間がかかるだろう。ではあるけれど、本書は現時点で最も真実に迫ったと思われる調査報道であり、読者が共感できる問題意識も、実に豊かだ。寿和丸の船主は、輸安全委員会の調査官にこんな言葉を投げつけられたという。『1番は旅客。2番は商船。3番目に漁船の事故。そういう優先順位がある』と。抗議したら声を出して笑われた、というのである。」
 私は、伊澤理江著「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を今日までに、読了しました。今年読んだ本の中で、一押しの作品です。「第58寿和丸」沈没事故に対する斎藤さんが文中で書いているように「本書は現時点で最も真実に迫ったと思われる調査報道であり、読者が共有できる問題意識も、実に豊かだ」との指摘に共感します。
 共感する内容は、これも斎藤さんが指摘している運輸安全委員会の調査の杜撰さです。事故の生存者などが、燃料油で海が覆われていたと証言しているのに、事故報告書では、「油は20リットル程度しかなかった」とされます。
 また、事故原因について、事故の生存者は「船底でドスン。ドスッ。バキッ。」と音がしたと証言しているのに、事故報告書では、「第58寿和丸転覆の原因は大波」だとされてしまいます。
 私は、この本を知ったのは、行きつけの理髪店に置いてあった「通販生活2023夏号」にあった「著書インタビュー」です。
 この中で、伊澤理江さんは、こう書いています。
 「なにより私を信頼してくれたのは野崎社長です。事故当時の緊迫した様子や震災以降の苦悩が伝わる分厚い手帳を託されたとき、野崎社長の疑念は、ジャーナリストである私が晴らさなければならないと感じました。」
 この本は、「第58寿和丸」の事故を解明する作品だけでなく、寿和丸の事故と東日本大震災を経験した福島県で最大の漁業会社を経営する酢屋商店社長・野崎哲社長の苦悩の日々がつづられたドキュメンタリーとして、読み応えがある作品です。
 私は、作家の伊澤さんが、野崎社長から多くのことを学び成長する物語でもあると感じました。
 斎藤さんは、この本の圧巻は「事故当時の会場自衛隊潜水艦司令官だった人物と対峙するシーン」だとしんぶん赤旗に書きました。潜水艦の闇を照らそうとする作品として、斎藤さんの指摘に共感します。
 その上で、私にとってのこの本の圧巻は、作者の伊澤さんが、野崎社長と対峙するシーンだと感じました。
 福島の漁業者の苦悩を描いた作品として、大いに学ぶことができる作品でもあります。
 様々な示唆を与えてくれる伊澤理江著「黒い海 船は突然、深海へ消えた」を是非、お読みいただきたいと思います。
 次なる願いは、「第58寿和丸」事故の真相が解明された上での、伊澤さんの次回作です。
 伊澤さんの次回作に大いに期待しています。伊澤さんの真摯な姿勢に感動しました。
 伊澤さんこの作品をありがとうございました。

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