23日、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者からの依頼を受けて、薬物を投与して殺害した容疑で2人の医師が逮捕され、衝撃を広げています。
26日付毎日新聞に、生命倫理や死生学を専門とする安藤泰至・鳥取大学医学部准教授がインタビューに応じました。
安藤医師は、二人の医師の逮捕について次のように語っています。
「一見、患者の意志に基づいて致死薬を投与しているように見えて、この医師たちは弱り切った難病患者や高齢者を生きる価値のないかわいそうな人と決めつけ、その命を絶つことを善行だと考えているように見えます。この点で、2016年にあった相模原市の障害者施設での殺傷事件に近いのではないでしょうか。」
安藤医師は、この問題の本質について次のように語っています。
「今回の事件の発生を聞いて、ついにこういうことが起こったか、と思いました。懸命に生きている難病の方のことを想うと胸が痛みます。重い病者や障害者、高齢者などに対し、不幸だと決めつけるような考えが進んでいるような感じがします。それは生きる価値を、仕事がどれだけできるかというような生産的な能力で考え、自分のモノというよりは、私たちがそれによって生かされている『いのち』の本質的な価値を考えることが少なくなっているためではないでしょうか。(政府の介入よりも自由競争を重んじる)新自由主義の考え方が広がる中、自己責任による生き残り競争にさらされた人たちが、より弱い人を探して攻撃するような社会になっているのかもしれません。」
26日のしんぶん赤旗は「主張」で、この事件についてこう書いています。
「ALS患者が、なぜ生き続けることの希望を失ってしまったのか。医療制度をはじめ社会の仕組みが患者を追い詰めていないのか。医師がなぜそのような行為に及んだのかー。難病患者の人権と尊厳、生きる権利にかかわる多くの深刻な問題が突きつけられています。『やまゆり園』事件にも通じる重大な課題も少なくありません。徹底的な解明が欠かせません。」
障害がある人もない人も、命、人権、尊厳が保証される社会を作っていくことが急がれます。
ALS患者を医師が殺害し逮捕される事件に対する皆さんのご意見をお聞かせ下さい。
志位委員長は、15日の記念講演で、「地球的規模での環境破壊と、感染症のパンデミックとは深いかかわりがある」として次のように述べています。
「人類の歴史のなかで、感染症の流行は、人類が定住生活を始めた時以来のものといわれています。ただ、この半世紀くらいは、新しい感染症がつぎつぎと出現しています。エイズ、エボラ出血熱、SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザ、ニパウイルス感染症、腸管出血性大腸菌感染症、ウエストナイル熱、ラッサ熱、新型コロナウイルス感染症などです。厚生労働省によると、この30年間に少なくとも30の感染症が新たに出現しているとのことです。出現頻度が高すぎる-これが専門家の指摘であります。この要因はどこにあるのでしょうか。多くの専門家が共通して指摘するのは、人間による生態系への無秩序な進出、熱帯雨林の破壊、地球温暖化、それらによる野生生物の生息域の縮小などによって、人間と動物の距離が縮まり、動物がもっていたウイルスが人間に移ってくる、そのことによって新しい感染症が出現しているということです。」
デイビッド・ウォレス・ウェルズ著「地球に住めなくなる日 『気候崩壊』の避けられない真実」に「グローバル化する感染症」という章があります。
デイビッドはこう指摘します。
「いまの世界はグローバル化が進み、人間の移動や接触が広範囲になったとはいえ、生態系はおおむね安定しており、それがもうひとつの防護壁になっている。新しい環境に伝播しても、そこでは生きられない病原菌もいるのだ。だから未開の自然を訪ねるツアーでは、未知の病原菌との接触に備えてワクチン接種や予防注射を山ほど受けさせられる。ニューヨークからロンドンに行くだけなら、その必要はない。だが地球温暖化で生態系がひっかきまわされると、病原菌は防護壁をやすやすと乗りこえる。蚊が媒介する感染症は、いまはまだ熱帯地域に限定されている。しかし温暖化のせいで、熱帯域は10年に50キロメートル弱の勢いで拡大している。たとえば黄熱は、ウイルスを持っているヘマゴグス属やサベテス属の蚊に刺されることで感染する。ブラジルでは、こうした蚊が生息するのはアマゾン川流域だけなので、ジャングルに暮らしたり、あるいは旅をする者だけが気をつければよかった。ところが2017年に、蚊がアマゾン川から飛びたち、サンパウロやリオデジャネイロといった大都市に来ていることが判明した。劣悪な環境で暮らす3000万人に、致死率3~8パーセントの黄熱がじわじわと迫っているのだ。」「気候と感染症の関係でたしかなのは、暑い地域ほどウイルスは活発になるということだ。これゆえ世界銀行は、2030年には36億人がマラリアの危険にさらされると予測する。」
地球温暖化と生態系の崩壊で、動物と人間の距離が縮まり、感染症が拡大しているとデイビットも指摘しています。
本ブログでも紹介したと思いますが、京都大学学長の山極寿一さんも、同様の指摘をされています。
デイビットは、地球温暖化を防ぐために、次のことを提起しています。
「気候変動で予測された暗澹とした未来図を見せられたほうがやる気をかきたてられる。それは団結して行動せよという号令だし、そうあるべきだと思う、その気候の万華鏡にはもうひとつの意味がある。地球という星はすべての人のふるさとであり、そこに選択の余地はない。しかし地球を何にたとえて、そこからどんな行動を起こすかはあなたしだいなのである。」
感染症のパンデミックで、環境破壊を食い止めることが急務だということを私たちは再認識しました。
今こそ、団結して行動するときです。
グレダ・トゥーンベリは、2019年1月、世界経済フォーラム年次総会(ダボス)でのスピーチをこう結びました。
「大人はつねに、若者に希望を与えなけらばならない、と言っています。けれど私は、大人の語る希望なんていりません。大人には、希望をもってほしくない。パニックに陥ってほしい。私が日々感じている恐怖を感じたうえで、行動を起こしてほしい。危機の真っただ中にいるように、行動してほしい。家が火事になっているように、行動してほしいのです。実際、今はそうなのですから。」
私は、常にグレダの言葉を忘れずに行動したいと思います。
22日の朝日新聞に「今を越えて~やまゆり園事件から4年」との特集記事が掲載されていました。
この特集記事に、伊是名夏子さんが登場しました。
伊是名さんは、「骨形成不全症」という障害で、身長が100センチで、車イスで生活しています。
私は、西宇部校区人権教育推進委員協議会会長を務めています。昨年度の西宇部校区人権教育推進大会で、「お互いの本当が伝わる時 -障害者ー」という人権啓発DVDを視聴しました。
このDVDに、伊是名夏子さんが出演しています。伊是名さんは、2018年7月の自らのブログの中で、「映画の俳優デビューしました。(中略)海外事業部 吉村彩女役です。」と書いています。
電動車イスを颯爽と動かす伊是名さんの姿を鮮明に覚えており、先述の朝日新聞の記事をじっくり読みました。この中で、伊是名さんは、「結婚し、2人の子どもを育てています。」と書いています。そして、伊是名さんの経歴に「昨年、著書、『ママは身長100㎝』」とあります。早速、宇部市で最大の書店に行くと、一冊だけ、伊是名さんの本があるではありませんか。
一気に、伊是名夏子著「ママは身長100㎝」を読みました。
伊是名さんは、沖縄県生まれ、乳幼児の頃から何度も手術を受けながら成長してきました。中学までは特別支援学校で学んだ伊是名さんですが、高校は、普通高校に。その後、早稲田大学に進学し、結婚して、香川大学の大学院に進みます。その頃、一人目の子どもさんを妊娠します。その後、二人目も出産。
伊是名さんは、現在、10名のヘルパーさんとともに、子育てを続けています。
伊是名さんは、本の中でヘルパー制度についてこう書いています。
「私の生活に欠かせないヘルパー制度。利用できるのはありがたいのですが、困ったところもあります。『同居をしている家族が介助すべき』という考えが強く、同居人がいる障害者は、制度を使えないことが多いのです。」「私は大学卒業後、沖縄に戻り、実家の二世帯住宅の1階に住んでいました。完全に一人の生活で、2階には親が住んでいました。親は姉の住む県外に行くことも多く、いないことも普通でした。でも私がヘルパー制度を使うためには、親は普段何をしていて、どんな理由があって私を介助できないのかを、市役所で細かく説明しないといけませんでした。20歳過ぎた障害者でも、結局は家族が介助することが前提なのです。」
伊是名さんは、その上で、「子育ても、障害者の介助も、家族だけで解決しようとすると、多くは行き詰まります。虐待や共倒れにつながることもあります。」と述べ、自民党改憲草案についてこう書いています。
「自民党現政権の憲法改正草案を読んで、私は恐ろしくなりました。第24条の草案には『家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない』が新設され、『家族』『扶養』『後見』という言葉が追加されています。家族で支え合うことがさらに強調さているのです。改正されたとき、障害者はますます生きづらくなるのではないかと、不安な気持ちでいっぱいです。」
昨日のブログで、英国のサッチャー元首相が、「社会なんていうものは存在しない」「自分の面倒は自分で見てくれないと困るのです」と発言したことを取り上げ、ジョンソン首相が自らもコロナに感染し、「コロナウイルスは『社会というものがまさに存在する』ことを証明した」「われわれの国民保健サービスを守れ」と発言したことを取り上げました。
伊是名さんは、先述した新聞でこう述べています。
「コロナによる不自由は、障害のある人の日常です。『障害者なんだからできなくて当たり前』とされてきたことが、みんなの問題となった。色々な支援や選択肢が生まれ、色々な人の生きやすさにつながってほしい。みんなの中に障害のある人も当たり前にいる社会をめざし模索しています。」
コロナ禍が社会の脆弱性をみせると同時に、新しい社会への模索を起こしています。
コロナ危機をのりこえ、新しい社会をつくる上で、伊是名さんの日常に学ぶべき点が多々あるように思います。
私は、日本福祉大学のゼミで障害者福祉を選択しました。障害者福祉は私のライフワークです。これからも伊是名夏子さんからしっかり学び、新しい社会をみなさんと一緒に作っていきたと思います。
伊是名夏子さんは。全国で講演も行っているとのことです。是非、伊是名さんの講演をお聞きしたいと思いました。
伊是名さんの素敵な笑顔がみたいと思いました。
一人でも多くの皆さんに伊是名夏子著「ママは身長100㎝」をお読みいただきたいと思います。
今朝のしんぶん赤旗日刊紙は、「政府が『ブースターを演習場内に確実に落下させることができない』として配備を断念した陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』をめぐり、実際は、ブースターの落下について全く想定していなかったことが、日本共産党の穀田恵二衆議院議員が入手した防衛省の報告書で明らかになりました。」と報じました。
この事について、竹下岳記者は、次のように解説しています。
「北朝鮮の弾道ミサイル迎撃を口実に、導入が強行された陸上配備型迎撃ミサイルシステム『イージス・アショア』(陸上イージス)。政府は、配備予定地の一つである陸上自衛隊むつみ演習場(山口県萩市)での『ブースターの制御不能』を理由に配備断念を決定しました。しかし、日本共産党の穀田恵二衆議院議員が入手した、むつみ演習場での『基本構想』(2019年5月)で、ブースター落下については検討外であることが明らかになりました。防衛省の説明の不自然さが浮き彫りになっています。さらに、同省は昨年12月、むつみ演習場を陸上イージス配備の『適地』と最終決定するにあたり、昨年5月以降、『イージス・アショア整備推進本部』を設け、専門家会合も開かれましたが、議題は①レーダーの電波照射②施設建設-にほぼ絞られており、ここでもブースターの落下位置は埒外だったことがうかがえます。陸上イージス導入に関わった河野克俊・前統合幕僚長も『ブースター落下が配備の支障になるなど在任中に聞いたことがなかった』(朝日15日付)と証言しています。そもそも、迎撃ミサイルを発射するのは、核弾頭を搭載した弾道ミサイルが上空を飛ぶ事態であり、ブースターの落下位置まで考慮しないのは軍事の常識だという指摘は、自衛隊のOBなどから相次いでいます。柳沢協二・元内閣官房長補は都内の講演で、『防衛省は、ブースターを演習場内に落下させるためには改修で10年以上の歳月と1000億円以上の経費がかかるというが、本当に必要だと考えているのなら、辺野古新基地のように、どれだけ時間と経費をかけても強行するはずだ』と指摘。『陸上イージスの能力は、迎撃ミサイルをより高く飛ばすことにあるが、北朝鮮やロシアが開発している高速滑空弾は低空を高速で飛行するため、対応できない』と述べ、『ブースターの制御不能』を利用して、完成前から役に立たないことが分かってきた陸上イージスから撤退した可能性を指摘しました。穀田氏が入手した『基本構想』は、もう一つの重大な事実を浮き彫りにしました。これまで防衛省は、陸上イージス導入費用のうち、施設建設費については、詳細が未定としており、明らかにしていませんでしたが、『基本構想』には建設費の詳細な見積もりが示されています。(実際の金額は非開示)。また、同省はもう一つの配備候補地である新屋演習場(秋田県秋田市)に関しても、『基本構想』を作成していることを認めており、ここにも詳細な見積もりが提示されているとみられます。参議院決算委員会は7日、陸上イージス配備断念までの経緯を検証するよう政府に求める決議を全会一致で可決。河野太郎防衛相は8日の衆院安保委員会で、経過の国会報告に前向きな意向を示しました。防衛省は『ブースター落下』問題にどう対処してきたのか、見積もっていた施設建設費はいくらだったのかを含め、一刻も早く国会と国民に明らかにする責任があります。」
今日、午後2時から、私は、オンラインシンポジウム「『この国に問う』-イージス・アショア配備計画の撤回決定を検証する-」に参加する予定です。
自衛隊が、ブースター落下問題を検証していなかった問題も多くの識者から語られると思います。
配備候補地だった地域の県議として、この問題をしっかり検証して、必要な問題は引き続き、県議会にも取り上げていきたいと思います。
イージス・アショア配備計画の撤回決定を検証することは、この国の将来にとって極めて重要な価値があるものだと思います。
シンポジウムでしっかり学んで、今後の活動に生かしていきたいと思います。
防衛省がイージス・アショアのブースター落下を検証していなかったことが明らかになりました。
この問題に対する皆さんのご意見をお聞かせ下さい。
今日のしんぶん赤旗日刊紙に、私が敬愛する自治体問題研究所理事長である京都橘大学教授の岡田知弘さんがインタビューで登場しています。
岡田さんは、コロナ後の地方自治のあり方について「行財政改革」問題から紐解いています。
「国は国境措置とともに本来、地方自治体の施策を行財政面から支える役割をもっています。ところが、市町村合併や『行財政改革』の結果、自治体はその役割を十分に果たせない状況です。これも対応が遅れた一因です。コロナ禍に際して、安倍政権は、緊急事態宣言発動にこだわり、『封鎖と隔離』政策をとりました。しかし、これでは対応できないことがはっきりしました。対照的なのは、韓国です。新型コロナ対応では詳細な感染マップをつくり、徹底した情報公開と市民参加で、人命を救うことを最優先しました。ドライブスルーでの大規模なPCR検査も早期に行いました。新自由主義の『元祖』の英国で、新型コロナに感染したジョンソン首相が退院後に『社会は存在する』と発言したことが印象的でした。彼の師匠ともいえるサッチャー首相が『社会は存在しない』と市場原理に任せ公的医療サービスなどを切り捨ててきたからです。コロナ禍のなかで、『公共』の大事さ、役割が国際的に再認識されたと思います。日本でも必要なのは『新しい生活様式』ではなく『新しい政治・経済・社会のあり方』です。何よりも住民の感染防止と命を守るために公共の責任を全うすることです。行き過ぎた行財政改革を根本的に見直し、公立・公的病院の再編計画を即時に中止し、地域の公衆衛生・医療体制を整えなければなりません。」
岡田さんが触れたイギリスの例は、志位委員長が行った記念講演にも出てきます。新自由主義の元祖サッチャー首相は当時このように述べていたのです。
志位委員長は、英国・ジョンソン首相が「コロナウイルスは『社会というものがまさに存在することを証明した」「われわれの国民保健サービスを守れ」と発言したことをサッチャー元首相の発言と比較してこう述べています。
「新自由主義『小さな政府』と自己責任押し付けの元祖-同じ保守党党首だったサッチャー元首相の『社会なんていうものは存在しない』『自分の面倒は自分で見てくいれなければ困るのです』と言い放った言明を、真っ向から否定したのであります。コロナ危機を経験して、新自由主義の居場所は、もはや世界のどこにも残されていない-このことを、ジョンソン首相の発言は、象徴的に語っているのではないでしょうか。」
岡田さんが触れた「行き過ぎた行財政改革を根本的に見直」す作業は、山口県で実際に行われています。
今年6月11日に行われた山口県行財政改革統括本部会議で、「新型コロナウイルスに係る今後のさらなる感染拡大の防止や、県内経済のV字回復のための反転攻勢等に人的資源・財源を集中投資するため、現在進めている行財政構造改革の取り組みを一時凍結する」ことを確認しました。
具体的には、本部会議は、「保健所の体制強化など、新型コロナウイルス対策に最優先の職員配置を行う」としました。
この点で、私は、6月県議会で職員の増員計画を質しました。
総務部長は「職員の増員等につきましては、感染症対策にあたる現場の状況等を踏まえて、健康増進課及び保健所等において、業務継続に必要となる人員配置や応援派遣を行っており、引き続き、適切に対応していく」と答えました。
本部会議は、公の施設の見直しについて「『現行の見直しの方向性』に基づいた市町との移管等に関する協議は中止する』としました。
私は、この点を6月県議会で質し、総務部長は、市町に譲渡及び廃止を検討していた県有施設について「来年度も指定管理を継続する」と答えました。
コロナ禍の中で、山口県で「公共」の大切さが再認識されています。
県内で、更に、「公共」の流れを加速させ、岡田さんが指摘する「地域の公衆衛生・医療体制を整える」山口県を実現していきたいと思います。
岡田さんの主張は、いつも、私に進むべき道を指示してくれるものです。
これからも岡田先生からしっかり学んで、県政の改革に生かしていきたいと思います。
先日、映画「ハリエット」を観ました。
映画のパンフレットからイントロダクションを引用します。
「アフリカ系アメリカ人として、史上初めて新しい米ドル紙幣に肖像が採用され、アメリカでは誰もが知る、実在の奴隷解放家、ハリエット・ダブマンの激動の人生を描いた話題の『ハリエット』がいよいよ日本に上陸した。奴隷として生まれた女性が、たった一人で自由を目指して逃亡し、家族や仲間を助けたい-心から地下組織の一員として活躍するようになる。そして、彼女はいつしか奴隷制度そのものを撤廃するために命をかけ、南北戦争では黒人兵士を率いて戦う『英雄』になっていた。」
映画のパンフレットの中で、映画ジャーナリストの猿渡由紀さんのこの映画の数奇性についての論証は興味深いものです。
「ハリエット・タブマンは普通の人ではない。彼女は、尋常ならぬ正義感と勇気、強い精神力と他人への労りをもった、真のヒーローなのである。彼女の話は小説やオペラなどで語られてきたし、アメリカのいくつかの街には、彼女の銅像もある。実現していないが、近年では、20ドル札に彼女の肖像を使うという案も出た。だが、彼女の映画が作られたのはこの『ハリエット』が初めてだ。理由はもちろん、これが黒人の、しかも女性の話だからである。白人男性が牛耳るハリウッドでは、昔から主人公は白人の男で、女性はその恋人役、黒人は出すとしても悪役と決まっていた。恋愛映画などで女性が主役のことはあっても、当然彼女は白人で、しかも若く、美しいのが絶対条件。昔から女性層にアピールするよう映画を宣伝してきた日本と違い、アメリカでは『女性についての映画は儲からない』『女優を出すぐらいならモデル並みのルックスが必須』という、男には都合のいい『常識』が根強く存在してきたのだ。さらに、奴隷の映画である。アメリカの白人は、自分たちに都合の悪いこの部分の歴史について、積極的に語りたがらないもの。(中略)長い年月を経た2019年、彼女の話はこうやって、黒人の女性監督ケイシー・レモンズの手で、正しい形でスクリーンに登場することになった」
志位和夫委員長は党創立記念講演の中で、6月19日、国連の人権理事会が緊急会合を開き、「警察官の過剰な力の行使やその他の人権侵害から、アフリカ人及びアフリカ系住民の人権と基本的自由を促進し、保護する」とする決議が採択されたことに触れています。
志位委員長は、この決議が2001年に南アフリカのダーバンで開かれた「人種主義、人種差別、排外主義および関連する不寛容に反対する世界会議」で採択された「ダーバン宣言」の実施をうたっていることに注目します。
「ダーバン宣言」は、「大西洋越え奴隷取引などの奴隷制度と奴隷取引」を「人類史のすさまじい悲劇」「人道に対する罪」と糾弾するとともに「植民地支配が起きたところはどこであれ、いつであれ、非難され、その再発は防止されなければならない」とされています。
新型コロナ・パンデミックの最中に、国連の人権理事会が、植民地支配は過去にさかのぼって非難されなければならないと宣言した「ダーバン宣言」の実施を決議したことは重大です。
私はこのような歴史的背景の中で、映画「ハリエット」がハリウッド映画として堂々と上映され、アカデミー賞にノミネートされたのだと思います。
圧巻は、ハリエットを演じるシンシア・エリヴォです。
演技は当然ですが、劇中に歌う彼女の声、そして、エンドロールで流れる「Stand Up」は圧巻の一言でした。
この辺りを映画のパンフレットの中で映画評論家の渡辺亨さんは次のように書いています。
「ハリエット役を演じているシンシア・エリヴォは、もともとミュージカルの世界で名を馳せていたスター。しかも彼女のブロードウエィ・デビュー作『カラーパープル』(2015年)は、20世紀初頭の米南部が舞台だけあって、音楽的にはゴスペルやブルースなどに根差している作品だ。シンシアはこの『カラーパープル』でセリー役を演じ、ドニー賞の主演女優賞をはじめ、数々の賞をそうなめにした。『カラーパープル』と『ハリエット』の舞台は異なっているものの、黒人差別が色濃い地域で、奴隷の立ち場に置かれていた女性が自我に目覚め、立ち上がる(Stand Up)過程が描かれている点では共通している。そして、まさにアフリカ・アメリカンの魂(Soul)が込められたシンシアのゴスペル的歌唱が、聴き手の心の奥深いところまで届き、激しく訴えかけてくるといった点でも、そのシンシアが歌う主題歌「Stand Up」は第92回アカデミー賞の優秀歌曲賞にノミネートされた」
映画を観てサントラ盤がほしいと思った私にとって、稀有な「映画」でした。それほど、彼女の歌唱が私の魂をふるわせました。
ハリエット・タブマンの生き方を更に学びたいとも思いました。
様々な意味で、私の人生に大いに刺激を与える映画が「ハリエット」でした。
是非、皆さんも御覧いただきたいと思います。
皆さんがご覧になった映画の感想をお聞かせ下さい。