在日韓国人二世の作家・朴慶南さんの近著「あなたが希望です」を読みました。
この本は、3つのテーマで書かれています。
一つは、「サハリンの旅から、歴史をつなぐ」です。
樺太に、戦前、多くの日本人と同時に朝鮮人が住んでいました。
戦後、日本人は帰国することが出来ました、韓国人の帰国は認められませんでした。
祖国に帰ることが出来ない朝鮮人の人々を追ったレポートです。
二つは、「宮本百合子が、私たちをつなぐ」です。
宮本百合子の「播州平野」の中に、朝鮮の開放を我が物の事として喜ぶ百合子の眼があることが指摘されています。
この辺りは、後程触れることにします。
三つ目は、「18年の愛に、希望をつなぐ」です。
朴さんの従姉である金弘子さんの物語です。
在日の金さんと日本人である浅井さんが結婚するまでの18年を追ったドラマです。
どの章も、心に残るもので、これからも折りに触れて読み返したくなるものばかりです。
宮本百合子の「播州平野」の中には、36年間におよぶ植民地支配から朝鮮が解放されたことを歓迎する場面が何か所も出てくると朴さんは紹介しています。
この中で、特徴的な場面を紹介します。
百合子は、終戦直後の混乱期、宮本顕治の故郷である山口県をめざします。
「播州平野」の中では、宮本顕治が石田重吉、百合子がひろ子として登場します。
「8月15日の正午から午後1時まで、日本じゅうが、森閑として声をのんでいる間に、歴史はその巨大な頁を音なくめくったのであった。」
朴さんは、百合子のこの表現について「それにしても『敗戦』を歴史の進歩として受けとめ、『巨大な頁を音なくめくった』と表現できた作家は、稀有だったと思います。」と書いています。
そして、「播州平野」の中での、解放の喜びに沸く朝鮮の人々の描写です。
「一切の世帯道具をもって、今や独立しようとしている故郷の朝鮮へ引きあげてゆく人たちの群である。」
「朝鮮までの旅と云えば、まだまだ先が長い。気をせくことはいらない。そうにちがいないけれども、その暗闇のうちに充満している陽気さには、何とも言えないのびのびと充実した生活の気分があった。」
朴さんは、百合子のこの表現について「これから解放された朝鮮の故郷へと帰って行こうとしている私の同胞たちの喜びに、ひろ子も心を添わせているのが伝わってくるようです。」と書いています。
朴さんは、「あなたが希望です」の表題に関連して、憲法学者の樋口陽一さんの言葉を引用しています。
「歴史に学ぶとは、負の歴史に正面から対面することであり、同時に、先人たちの営みから希望を引き出すことでもある」
まさに、終戦直後の朝鮮の人々の姿に「希望」を見ることができます。
朴さんは、百合子の章で「十二年の手紙」などに触れながらこのように書いています。
「戦争反対を表すことが命がけの時代が、かつてありました。命をかけても戦争に反対しようとした人たち、そういう人たちがいたことが、いまを生きる私たちに大いなる勇気と力、そして自負心を与えてくれます。」
私は、この本を読んで、戦争反対と命を懸けた小林多喜二や宮本顕治、宮本百合子らの存在に希望を抱きました。
そして、今日も街頭から「戦争反対」を訴えようと誓う力をこの本からもらいました。
朴さんの他の本も読んでみたいと思います。
また、多喜二や百合子の作品、そして「十二年の手紙」などを読み返したいと思いました。
朴さん、私にとって今、あなたが希望です。この作品を読ませていただいてありがとうございました。
朴さんのファンの皆さん、朴さんの他の作品を紹介して下さい。
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