医師であり作家の夏川草介さんのインタビュー記事が、22日のしんぶん赤旗日刊紙に掲載されていましたので紹介します。
「医師として働きながら命や人の生き方を問う小説を発表してきた夏川草介さん。昨年刊行した『スピノザの診察室』が今年の本屋大賞候補10作中第4位になりました。タイトルの『スピノザ』は17世紀オランダの哲学者です。本書には『人間の行動と感情を嘆かず笑わず嘲らず、ひたすら理解しようと努めた』と紹介されています。『治らないままみとることも多い高齢者医療に携わる中、多くの哲学書を読みましたが、一番、自分に必要なことを言ってくれていたのがスピノザでした。人間中心にものを考える哲学者が多い中、人間にできることは限られていた。他方、人間の努力は肯定し、希望もある。とても共感しました。物語の舞台は京都。内科医として地域病院で働く雄町哲郎(通称『マチ先生』)がスピノザの価値観に支えられながら、さまざまな事情を抱えた患者たちの最期の時間に向き合います。これまで作品の大半は、自身も暮らす長野を舞台としていました。『医療の世界にとどまらない、(人の幸せとは何か)という普遍的なテーマを際立たせるためには、舞台から変える必要があると感じたんです』京都府と隣接する大阪府高槻市で生まれ育った夏川さん。長野と同様、京都は身近な場所でした。『景色をベースに人を描くので、自分がよく知っている場所でないと書けない。子どもの頃からなじみがあって、景色にも思い入れがある京都を選びました』夏の鴨川や五山の送り火などの風物に加え、マチ先生の好物である『阿闍梨餅』や『長五郎餅』などの京都銘菓も物語に彩りを添えます。副作用に苦しむ治療をやめた末期のがん患者や、生活保護を拒み十分な治療ができない患者。マチ先生と担当患者との交流は、夏川さん自身の経験がもとになっています。描きたかったのは『すごい患者』との出会いでした。『死に近い現場で働いていると、時々(みんなに均等に回ってくる順番が来ただけ)と、自分が消えていくときの風景をイメージできている人に出会うことがあるんです。そういう患者さんとの出会いが、医師自身や患者との関係を成熟させる。貴重な素晴らしい出会いです』高校1年生で経験した阪神・淡路大震災をきっかけに医師の道を志しました。働きはじめて、数年、心身ともにバランスを崩しかけていたとき、妻に『気分転換に小説を書いてみたら』と提案されました。『執筆は自分のメンタルを維持するためのレクリエーションにすぎませんでしたが、書き終わったとき、自分が何を悩んでいたかがわかり、前を向けるようになっていたんです。それからは、現場で大きな壁にぶつかると書くようになりました』コロナ禍の医療現場を描いた『臨床の砦』『レッド・ゾーン』は『医療現場に戻るために書いた』と言います。『怒りと悲しみの連続でした。でも、過酷な状況だったからこそ、美しく、かっこいい人たちにも出会えた。理想の人間性を持つ人たちの存在を知ることができたことは、間違いなくプラスの経験でした』子どもが幼い頃、中島敦の『山月記』を暗唱して寝かしつけていたほどの文学好き。『よく寝てくれました』ペンネームも、尊敬する夏目漱石や芥川龍之介からつけました。彼らが今生きていたら、一体、何を書くのか、考えます。『彼らから見て恥ずかしくないように人物像を描きたいと思っています。優しさや幸せとは何かを真剣に考えるような人物。そういう人たちを描き続けることで、声が大きく、勝ち続ける人ばかりが幅を利かせる社会を少しでも変えていきたい。困っている人に手を差し伸べやすい社会をつくる支柱でありたいと思っています」
夏川草介著「スピノザの視察室」を50ページ読みました。
前半の中にも「人の幸せとは何か」を考えさせる場面があります。
哲郎は、紆余曲折あり、甥の龍之介と生活しています。
哲郎は、そのために、東京で大きな大学病院で勤務していた生活の転換を強いられます。
龍之介は、叔父にそのような選択をさせてしまったことに負い目を感じています。
そのことを龍之介に言われた哲郎がこう返します。
「地位も名誉も金銭も、それが単独で人間を幸せにしてくれるわけじゃない。人間はね、一人で幸福になれる生き物ではなんだよ」
深く心に響くセリフです。
大学病院では、検討課題は、目の前にある病気をどうやって治療するかだったと振り返る哲郎。
しかし、今哲郎が見つめる医療は、次のようなものだと語ります。
「方法を問うているのではない。行動の是非そのものを問いかけてくる。」
新聞記事にある「スピノザ」の「人間の行動と感情を嘆かず笑わず嘲らず、ひたすら理解しようと努める」姿勢の重要性をこのセリフは言っていると感じました。
新聞記事の夏川さんのこのセリフが好きです。
「声が大きく、勝ち続けられる人ばかりが幅を利かせる社会を少しでも変えていきたい。」
私とは職業も対象としているものも違う夏川さんですが、同じような未来を求めているのだという共感を感じました。
私は、日々、多くの市民の方から様々な相談を受ける仕事をしています。
その日々の中で、対象の方の問題にどのように共感できるのか、どのようにお声がけするのか悩む日々です。
私の苦悩を和らげる、勇気をいただける作品が夏川草介著「スピノザの診察室」だと感じます。
本書からしっかり学びたいと思います。この連休は、実家の草刈りをしながら、少し時間があるので、夏川草介さんの他の作品にも触れていきたいと思います。
夏川草介ファンの皆さん、おすすめの作品をお教えください。
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