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映画「異端の鳥」

 ワイカムシネマで、映画「異端の鳥」を観ました。169分のこの長編映画は、最初から最後まで衝撃的でした。
 映画のパンフレットから簡単なストーリーを紹介します。
 「東欧のどこか、ホロコーストを逃れて疎開した少年は、預かり先である一人暮らしの老婆が病死した上に火事で家を消失したことで、身寄りをなくし一人で旅に出ることになってしまう。行く先々で彼を異物とみなす周辺の人たちの酷い仕打ちに遭いながらも、彼はなんとか生き延びようと必死でもがき続ける。」
 「行く先々で彼を異物とみなす周辺の人たちの酷い仕打ち」の数々の描写が衝撃的なのです。
 小説家の深野野分さんは、この作品について次のように書いています。
 「(野蛮)という言葉を、現代社会に生きる我々は意識の片隅に追いやっている。『人間には理性がある、(野蛮)などという概念は時代遅れであるし、そもそも人を野蛮などと言うのは差別的だ』と思う。そして『自分は絶対に(野蛮)ではない』と考える。そんな我々が『異端の鳥』を観たら、目を背けたくなるだろう。あるいは『残酷さをひけらかすのは悪趣味』と怒るか、『古い、飽きた』と否定して平静を保とうとするかもしれない。だがそれは我々が本能的に知っているからだ―人間はいとも簡単に(野蛮)になれることを、理由をこじつけてでも虐めたという熱望を、今もすぐそばに感じている。(中略)『戦争が人を変えてしまう』のではない。人間が元々残忍だから迫害も虐殺も起き、戦争も勃発するのである。戦争は、突然地球外からやってきた宇宙人が仕掛けるものじゃなく、私たちが今この手で起こす仕業だ。」
 私は、この深野さんの文章を読んで、「歎異抄」の第13条を想起しました。現代語訳を引用します。
 「思い通りに殺す縁がないから、一人も殺さないだけなのである。自分の心が善いから殺さないわけではない。また、殺すつもりがなくても、百人あるいは千人のひとを殺すこともあるだろう」
 相愛大学教授の釈徹宗さんは、「『この身があるかぎり、状況によっては何をしでかすかわからない。それがわれわれの実存なのだ』という教えです。(中略)『望まなくても悪を侵すのが我々の実相である。そもそも我々は他の生命を奪って生きている身ではないのか』と、うわべだけの偽善に肉迫します。」とこの章を「100分で名著『歎異抄』」で解説しています。
 深野野分さんは、この映画の解説の最後にこう書いています。
 「この作品に対して感じる苛立ちは正しい。正義や愛、優しさ、善性を求めたくなる気持ちこそが、人間の中に同居する残忍さを押さえる唯一のものだと思う。そして相反する両輪がバランスを取ってやっと、自立した意思と言葉、名前を持つ人になるのかもしれない。」
 私が、深野さんのこの文章を読んで、志位委員長が先日行った党創立99周年の記念講演の中で、植民地支配の過去を問う世界的流れについて触れた部分を想起しました。
 志位委員長は、こう指摘しました。
 「ドイツ政府は、今年5月28日、20世紀の初頭に、ドイツの植民地だったナミビアで犯した大虐殺について、公式に『民族大量虐殺(ジェノサイド)』と認めて謝罪し、11億ユーロを拠出すると表明しました。(中略)メキシコのロペスオブラドール大統領は、5月3日、19世紀に、マヤ族を中心とする先住民に対し、その『絶滅』を目的にした残虐行為を行ったことを謝罪しました。(中略)オランダ・アムステルダムのハルセマ市長は、7月1日、過去にアムステルダム市が行ってきた奴隷貿易に対する謝罪を発表しました。」
 その上で、志位委員長は、日本政府の姿勢を次のように批判しました。
 「一国の首相が植民地支配を美化する発言を公然と行い、植民地支配と一体に進められた戦時性暴力=日本軍『慰安婦』問題そのものを捏造だという論議を、政府が公然とふりまいています。これはあまりにも恥ずべきことではないでしょうか。」
 私は、映画「異端の鳥」を観て苛立ちました。苛立ちを感じさせることこそが、この映画を作成した監督の意図だったのかも知れません。この映画を観て、人間の残忍さを抑えるために、正義を求めていこうと決意を新たにしました。
 その意味で、目を背けたくなる場面の多い映画でしたが、観終わった後に、力が湧いてくるような作品でした。
 この映画を作成したヴァーツラフ・マルホウル監督に感謝したいと思います。
 やはり、映画はいいですね。私の命の洗濯の一番の方法は映画を観ることだなと再認識しました。
 皆さんが最近、ご覧になった映画の感想をお聞かせください。

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