第155回(2016年上半期)芥川賞を受賞した村田紗耶香著「コンビニ人間」を一気に読みました。
この本は、36か国・地域で翻訳がされ(予定も含む)た世界的ベストセラーと言える書作です。柳美里さんの「JR上野駅公園口」が全米図書賞を受賞しましたが、この本を読んで、彼女の作品が今後更に世界的な評価を受けるであろうことを実感しました。
文庫版の裏表紙から本書の内容を紹介します。
「『いらっしゃいませー』お客様がたてる音に負けじと、私は叫ぶ。古倉恵子、コンビニバイト歴18年。彼氏なしの36歳。日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、『店員』でいるときのみ世界の歯車になれる。ある日婚活目的の新入り男性・白羽がやってきた・・・。」
本文で古倉さんの言葉の一部です。
「正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。だから治らなくてはならないんだ。治らないと、正常な人達に削除されるんだ。」
文庫の解説で作家の中村文則さんは、本作をこう評しています。
「この小説は、村田さんの会心の一撃だと僕は勝手に思っている。文学的な質の高さだけでなく、生き難さを増す『普通圧力』の社会に颯爽と登場した、まさに逆の意味で時代が生んだ小説でもある。『皆が不思議がる部分を、自分の人生から削除していく』という主人公の言葉などは、本当に染みるものがある。」
この小説を読んで、斎藤幸平さんが解説し先日終了したEテレ「100分で名著」「資本論」の「第三回 イノベーションは『くそどうでもいい仕事』を生むのか」の内容を想起しました。
マルクスは資本論でこう述べています。
「機械労働は、神経系統を極度に疲弊させる一方、筋肉の多面的な働きを抑圧し、心身の一切の自由な活動を封じてしまう。労働の緩和でさえも責め苦の手段となる。なぜなら、機械は労働者を労働から解放するのではなく、労働を内容から解放するからである。」
「労働を内容から解放する」ことの意味について斎藤さんはテキストでこう解説しています。「無内容な労働を強いるからです。内容がないということは、自らの手で何かを生み出す喜びも、やりがいや達成感、充実感もない、要するに疎外されているということです。そして、無内容なので、いつでも、誰とでも置き換え可能となり、労働者の力はますます弱めらてたのでした。」
現代の労働は、「構想と実行の分離」の状況にあること、「構想と実行の分離を乗り越えて、労働における自律性を取り戻すこと」が重要であると斎藤さんは解説します。
小説の中の白羽の言動は、まさに、現代の労働が「構想と実行の分離」状況にあることをあぶりだし、「労働における自律性を取り戻す」苦悩のように感じてきました。
労働における「構想と実行の分離」に苦しんだ古倉は、苦しみから逃れるため「実行」に徹する生き方を進もうとしているように感じました。
文庫の解説で述べている中村文則さんの「普通圧力」とは、「構想と実行の分離」に気づくな、「実行」に徹しろという「圧力」のように感じました。
村田紗耶香さんの「コンビニ人間」と斎藤幸平さんによる「資本論」解説を統合して読んでみました。
村田紗耶香さんの小説は「コンビニ人間」が初めてでした。現代を鋭く斬る作品に魅了されました。村田さんの他の作品も少しづつ読んでいきたいと思います。
「コンビニ人間」の感想をお聞かせ下さい。村田紗耶香ファンの皆さん感想をお聞かせください。
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