議員日誌

「戦争の記憶」読書ノート①

 イージス・アショアの問題などを学んだ秋田県視察の帰り、秋田空港の書籍コーナーで、キャロル・グラックコロンビア大学歴史学教授の「戦争の記憶 コロンビア大学特別講義-学生との対話-」を購入して、帰りの飛行機から興味深く読み進めています。

 グラック教授が、様々な国籍の学生と「戦争の記憶」をキーワードに語り合う特集が「ニュースウィーク日本版」に掲載され、それをまとめたのが本書です。

 対話の章の終わりにグラック教授の感想やコラムが書かれています。

 「コラム2慰安婦が世界にもたらしたもの」は極めて印象に残る内容でした。

 グラック教授は「法律、証言、権利、政治、そして責任-この5つの領域を変化させたという意味において、慰安婦の記憶は、アジア内にとどまらず世界中で影響を及ぼすようになった。」と述べています。

 第一の法律に関し、グラック教授は、次のように述べています。

 「1998年に採択された国際刑事裁判所のローマ規程をもって強姦を『人道に対する罪』と宣言した。そこに至るまでの議論では、法曹や法学者、人権活動家らが、20世紀の戦争につきまとう女性への性的暴力の例として『慰安婦』に頻繁に言及していた。」

 第二の証言に関し、グラック教授は、次のように述べています。

 「歴史家が長い間、歴史的事実を証明するために証拠として頼っていたのは記録文書だった。個人の記憶というのは不完全かつ主観的すぎて、歴史を描く上での確かな情報源にはなり得ないと考えられていた。」「日本の裁判所は元慰安婦が訴訟を起こすと繰り返し賠償請求を棄却してきたが、なかには、彼女たちの証言の内容は『反論の余地のない歴史的証拠』であると認めた裁判官もいる。慰安婦たちがひとたび長い沈黙を破ったとき、それは我々が過去を認識する方法を変える助けとなった。私的な物語が、公的な力を持ったのだ。」

 第三の権利に関し、グラック教授は、次のように述べています。

 「元慰安婦は記憶も人権の一つだと主張していた。この『記憶の権利』は、数十年前に南米で注目され、2006年に国連が『真実を知る権利』として主張した。」「自分たちの経験について若い世代に伝え、受け継いでいくことを求めた。この過程で、年老いた慰安婦たちは沈黙から主張へ、見えない存在から記憶の権利ある市民へと、歩み出した。」

 第四の政治について、グラック教授は、次のように述べています。

 「第二次世界大戦が終結して以降、記憶の政治に変化が起こり、そこで新たに生まれた規範や期待によって、私が呼ぶところの『世界的な記憶の文化』が形成された。元慰安婦も、今やこの文化の一部である。認知、補償、そして謝罪は現在、世界的な記憶の政治において一般的な要求となっている。」「慰安婦は東アジアだけではなく、世界のあちこちで政治問題化した。ヨーロッパ・アメリカの指導者たちは日本政府に対し、かつて慰安婦に行った不当行為を認めるよう求め、慰安婦像は北米、ヨーロッパ、中国などの各地で繁殖し続けている。」

 第五の責任に関し、グラック教授は、次のように述べています。

 「当初、戦争責任を問われたのはヒトラーのような邪悪な指導者だった。ところが後になって、『上官の命令に従っただけだ』と主張する人々にも『組織的な罪』が割り当てられるようになった。さらに時を経て、一般の人々でさえも、当時の政治の流れに逆らわないよう何もしなかっただけだとしても、責任があるとされるようになった。」「慰安婦の問題についてわれわれ市民に課せられた責任、それは、女性の人権を守るために、また現在において女性に対する性的暴力を防ぐために、過去から学ぶ点である。この責任はなにも日本に限ったことではない。慰安婦の記憶と同様、女性に対する責任も世界に共通のものとなっている。」

 グラック教授は、このコラムをこう締めくくっています。

 「元慰安婦は、経済的に貧しく力を持たない年老いた女性であることが多く、アジア各地に散らばっており、同じ国に住んでいるわけでも、お互いに知っているわけでもなかった。だが彼女たちは、声を上げる勇気をもっていた。そして多くの支援者の助けを得ながら、女性の権利、性的暴力、戦時・平時の両方において市民に課せられた責任について、法的、社会的、政治的、道徳的な理解を変えることに寄与した。これが、慰安婦が世界にもたらした変化だ。」

 慰安婦問題の意義をこれだけ掘り下げ世界的な変化と位置付けた文章を私は初めて読みました。

 慰安婦問題が、世界を変え、民主主義を発展させているとのグラック教授の論説に勇気が湧いてきました。

 一つ一つの問題を掘り下げていく重要性を痛感しました。

 引き続き、。グラック教授から多くのことを学びたいと思います。

 グラック教授に対する皆さんの想いをお教えください。

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