議員日誌

恒藤恭「世界民の愉悦と悲哀」を読む

 京都市で長年、弁護士として活躍されている中島晃さんが今春「仏教と歴史に関する19の断想」という本を上梓されました。

 この本の感想を本ブログに掲載したことを契機として、作者である中島晃さんと親交させていただいています。

 法然や親鸞の思想を学ぶ雑誌「連続無窮」2019年秋号に、中島晃さんの「恒藤恭『世界民の愉悦と悲哀』を読む-国家主義を超えて」が掲載されています。

 昨年10月、韓国大法院(最高裁)は、新日鉄住金に対し、戦争中に強制的に働かされた元徴用工に一人あたり1億ウォンの賠償を命じる判決を下しました。

 この判決に対し、安倍首相は「国際法に照らしあり得ない判断」だと反発しました。

 安倍首相の発言について、中島さんは次のように指摘しています。

 「そもそも、国家が個人の損害賠償請求権を放棄できないことは、いまや国際人権法の常識ですらある。安倍首相や日本のマスメディアは、こうした国際的な人権法理に対する無知をさらけ出したといえよう。いうまでもないことであるが、『人権』はすべての人間が個人としてもつ個有の権利であって、国家は勿論のこと何人といえどもこれを奪うことができないものである。したがって、国家が個人の損害賠償請求権を含む人権を放棄することなどできないことは自明のことであろう。

 中島さんは、日本のマスメディアが国際的に無知をさらした背景について次のように指摘しています。

 「おそらく、『元徴用工』の補償問題を報道したマスメディアの関係者(記者まで含めて)は、自国の利益を第一とする自国ファースト(自国第一主義)のとりこになっているのではないだろうか。そして、またその根底には、低俗なナショナリズムの発想が流れていると思われる。」

 その上で、中島さんは、日本の代表的な法哲学者である恒藤恭が、雑誌「改造1921年6月号に書いた「世界民の愉悦と悲哀」と題する論文を紹介しています。

 恒藤は、個人の自由と幸福のために重要な条件である生存権について、世界民は国家に対し、次の三重の関係において生存権を要求すると書いています。

 第一に、「各国家がその国民の全員に対し、平等の生存権を確保すべきこと、還言すればその国民の全員をして平等に人間らしき生活をいとなみ得させるような社会組織を達成することを、自然法の権威によって要求」する。

 第二に「各国家がその領土内に在る一切の他国民に対し自国民と平等なる生存権を確保すべきことを要求」する。

 中島さんは、「一国の領土内における生存権の保障は国籍を問わないのである」と注釈しています。

 第三に「それそれの国家を構成している国民の平均的生活程度が、能ふ限り同位置の高さに近づき得るやう、各国家が相互に他の国家に対して必要な生活手段を補給し合ふべき義務を履行することを希望する」

 この恒藤の主張について、中島さんは、次のように評価しています。

 「フランス革命などの人権思想をはるかに超えて、生存権を普遍的人権として、すべての国家の存立の原理とすることを要求するものであり、そのラジカルな人権思想に深い感動を覚えるものである。」

 恒藤は、戦争と平和の問題について次のように書いています。

 「人類を殺戮することが、国家を愛することと為るならば、愛国心とは最も恥ずべき不徳ではあるまいか?戦争のいとふべく、悲しむべく、呪ふべきことを、世界民は何人に劣らず深刻に感じてゐる。だから戦争を防止し、戦争の機会を減少することを目的とする制度なり努力なりに対し、彼らは満腔の賛意を表する。」

 中島さんは、恒藤の法思想の今日的意義について次のように指摘しています。

 「元徴用工問題についても、恒藤が100年近く前に説いた世界民の法思想とそれを具現した国際人権法理にもとづいて議論することが求められている。しかし、さきに述べた安倍首相などの日本政府の見解とそれに同調するマスメディアの論稿がさきに述べた国際人権法理に明白に反するものになっているのは、まことに残念なことである。こうした議論の背景に国家主義の台頭があることが指摘されているが、恒藤が国家主義が好戦思想の道連れであると鋭い警告を発していることからいえば、いまあらためて、国家主義と対峙して、これをのりこえるために不断にたたかい続けることがもとめられているといえよう。」

 個人の上に国家を置き、戦争に突き進んだ歴史を繰り返してはなりません。

 戦前の幾多の戦争の渦中にあった約100年前に、「国家主義は好戦思想の仲よい道連れであることはいうまでもない」と指摘した恒藤恭の法思想は、今日的に大きな意義があることを感じました。

 私は、イージス・アショア配備撤回を求める運動や朝鮮学校の補助金回復を求める運動や長生炭鉱の『水非常』を歴史に刻む会の運動などに関わっています。

 これらの問題を解決していくためには、「国会主義と対峙して、これをのりこえるために不断にたたかい続けることがが求められている」ことを中島さんの文章から痛感しました。

 これからも中島晃さんと親交させていただいていることを喜びとし、中島さんからしっかり学んでいきたいと思います。

 最近の安倍政権の動きについて皆さんはどうお考えですか。お教え下さい。

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