議員日誌

虚ろな十字架

 久しぶりに東野圭吾さんの小説「虚ろな十字架」を読んでいます。

 実は、我が家の長男が通っている大学が東野さんが卒業した大学です。

 工学部というのも同じです。東野さんの大学の後輩が私の長男だということで、久しぶりに読みたいなと思い手に取りました。

 この小説は、ストレートに「死刑」問題を問う作品です。

 文庫本の裏表紙にあるこの本のストーリーを引用します。

 「中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が殺害されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親に相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた-。」

 小夜子は、離婚後フリーライターとして、死刑廃止反対の立場で多くの記録を残していました。

 その中に、小夜子の一人娘の犯人を弁護した平井弁護士を取材したものがありました。

 平井弁護士は、小夜子の「執拗に死刑を望んだことについてどう思うか」の問いにこう答えています。

 「家族を殺された人々が死刑を望まないケースなんて、私の記憶には殆どありません。弁護士としては、むしろそこからがスタートだと思っています。被告人は、断崖絶壁の端に立たされている。先はもうありません。だったら被告人のために、少しでも後ろに下がる道を模索するしかない。片足一歩でも下がれるスペースがありそうなら、何とかしてそこまで移動させたい。それが弁護だというものなのです。」

 平井弁護士は、小夜子から死刑制度について聞かれこう答えています。

 「冤罪で人を殺してしまうおそれがある、というのが死刑廃止論の中で一番強い意見だと思いますが、私の主張は少し違います。私が死刑に疑問を感じるのは、それでは何も解決しないと思うからです。Aという事件があり、犯人が死刑になった。Bという事件があり、こっちも死刑になった。事件は全く別物で、遺族の顔ぶれも違うのに、結論は死刑という一言で片づけられてしまいます。私は、それぞれの事件には、それぞれにふさわしい結末があるべきだと思うのです。」

 中原は、直接、平井弁護士に会い、一人娘を殺した罪で死刑を受けた虻川について聞きます。

 平井弁護士はこう語ります。

 「虻川は氏名のことを刑罰だとは捉えなくなっていたのです。自分に与えられた運命だと思っていたのです。公判を通じて彼が見ていたものは、自分の運命の行方だけでした。だから他人のことはどうでもよかった。彼が上告を取り下げたのは、ようやく運命が決まったのだから、もうやり直しは面倒だということだったのです。死刑確定後も、私は手紙や面会などで虻川とやりとりを続けました。もう一度彼に自分の罪と向き合ってほしかったからです。しかし彼にとって事件はもう過去のことでした。彼の関心は、自らの運命にしか向いていなかった。」

 平井弁護士は、中原に死刑が執行されて何か変わったか聞きました。

 中原は「いいえ」と答えます。

 平井弁護士は、「そうでしょうね。そして虻川も真の意味で反省には、といとう到達できないままだった。死刑判決は彼を変わらなくさせてしまったんです。」「死刑は無力です」と語ります。

 この作品は、死刑について考える良質のルポルタージュのようです。

 死刑廃止反対論だけのものや死刑廃止論だけのものはありますが、両方を語り、読者に考えさせるのが本作の意義だと思いました。

 その上で、東野圭吾さんの思いが平井弁護士の言葉に託されていると私は思いました。

 東野圭吾さんの作品に「天空の蜂」があります。本作は映画にもなり、私は、原作と映画を両方楽しみました。

 この作品は原発問題を鋭く問うものです。

 東野圭吾さんは、エンターテーメント小説の大家ですが、社会問題を正面から取り上げた作品も多くあります。

 今度、ドラマ化される「片思い」はLGBTの問題をテーマにした作品です。

 「虚ろな十字架」を読んだ後には「片思い」を読みたいと思っています。

 そして、「ナミヤ雑貨店の奇跡」が映画化され秋にはロードショーされます。

 東野圭吾さん作品の映像化も目白押しです。

 長男の大学の先輩、東野圭吾さんからしばらく目が離せそうもありません。

 皆さんは死刑制度についてどうお考えですか。

 東野圭吾さんの作品に対するご意見もお聞かせ下さい。

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