議員日誌

聖の青春

 大崎善生さんの「聖の青春」を読んでいます。

 本作は、重い腎臓病を抱えながら将棋界に入門し、最高峰のリーグ「A級」での奮闘のさなか、29年の生涯を終えた天才棋士・村山聖さんを扱ったノンフィクション小説です。

 村山さんは、1969年生まれですので、私の5歳下になります。広島県府中町出身。

 村山さんのお母さんのトミコさんは、原爆投下当時12歳。広島県北で集団疎開をしていたために、直接放射能を受けた訳ではありませんが、市内に戻りそこで被爆します。原爆による肝機能障害の持病があります。

 先日読んだ「赤ヘル1975年」にも原爆投下後の広島で二次被爆する「入市被爆」のことが書かれてありましたが、トミコさんは、まさに「入市被爆」を受けられたのでしょう。

 村山さんは、5歳の時に、「ネフローゼ症候群」にかかっていることが発覚。入院中に父・伸一さんから将棋を教えてもらって、のめり込みます。

 村山さんは、中学時代、森信雄に師事し、大阪で師匠と共に生活します。

 1986年11月にプロデビュー。村山さん、その後も入退院を繰り返しながらA級8段となり、29歳で生涯を閉じます。

 原作者の大崎さんは、将棋雑誌編集者として将棋界のもっとも近くで生活してきた方です。

 村山さんが、A級8段になって、東京に居を移した時も、村山さんのアパートを探したのが大崎さん。

 村山さんとの深い親交を振り返り、大崎さんはこう書いています。

 「やさしさ、強さ、弱さ、純粋さ、強情さ、奔放さや切なさといった人間の本性を隠すこともせずに、村山はいつも宝石のような純粋さを放っていた。村山がその豊かな人間性で人を魅了してやまなかった。」

 本作は、大崎さんの村山さんに対する愛情と情熱に満ちたノンフィクション小説です。

 大崎さんは、こう続けます。

 「父伸一、母トミコ、師匠森信雄。村山の側にはいつも桁外れに無垢で頑固な人間たちがいた。」

 村山さんを取り巻く無垢で頑固な人間たちが大いに描かれているところが本作のもう一つの魅力です。

 村山さんは生前このようなメモを残しています。

 「何のために生きる。

 今の俺は昨日の俺に勝てるか。

 勝つも地獄負けるも地獄。99の悲しみも一つの喜びで忘れられる。人間の本質はそうなのか?

 人間は悲しみ苦しむために生まれたのだろうか。

 人間は必ず死ぬ。必ず。

 何もかも一夜の夢」

 読者は、村山の純粋な想いに心を打たれるのです。

 大崎さんは、村山の想いをこう表現します。

 「このまま朝がこないかもしれないと思うことがあった。しかし、たとえ朝日が昇らなかったとしても、そして熱にうなされて起こされる漆黒の夜にも、村山は心の中に太陽を抱いていた。名人という光。」

 村山さんの想いを綴る大崎さんの文章に読者は心を打たれるのです。

 村山さんにとっての将棋を自分の中に見つけようとする自分がいます。

 心の中にいつも太陽を抱いて生きていこうと思う自分がいます。

 実際に生きた村山聖さんを題材にしたノンフィクション小説ならでは醍醐味を感じる一冊です。

 今年読んだ本の中でも屈指の作品となりました。

 「聖の青春」は、今月19日から映画となって全国ロードショーが始まります。

 村山聖役は、松山ケンイチさんが、羽生善治役は、東出昌大さんが、演じます。

 県内でも下関市と下松市の映画館で上映されるようです。どちらかの映画館で観ようと思っています。

 村山聖さんが亡くなって、18年になろうとしています。

 村山さんの生き方は、私を含めて多くの人々を励ましています。

 

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