この連休、相場英雄さんの「ガラパゴス」を読んでいます。
上巻を読んで、今、下巻を読んでいるところです。
この作品は、少なくとも今年読んだ小説の中で、最高水準のものです。
現代社会の鋭く切り取る秀作です。ぜひお勧めします。
上巻の後半に、現在の労働市場の実態がリアルに描かれています。
派遣労働者である工藤がこう語ります。
「正社員やパートなど顧客企業が直接雇用する人たちは人事部が把握しています。しかし、我々は部品や備品と同じ扱い、足りなくなった分を補うという意味で外注の加工費としてカウントされているのです。部品以下かもしれませんね」
派遣労働者の過酷な実態を生んだ背景を相場さんはこう書いています。
「1985年の規制緩和によって『労働者派遣法』が施行され、従事可能な職種が拡大していった。1999年、労働者の派遣が原則自由化されたのを皮切りに、2004年になると工場の製造ラインへの労働者派遣も自由化された。目の前には、規制緩和という耳障りの良い言葉とは裏腹に、過酷な労働を強いられてきた工藤というごく普通の男がいる。」
人材派遣会社の森社長がトクダモーターズの松崎社長にこう話します。
「ジョブ型正社員なんかも、ガタガタ言ってきたら解雇すればいいだけですわ。社長、総理大臣が『世界で一番企業が活躍しやすい国にする』言うたんは、千載一遇のチャンスだがね」
更に、上巻の最後には、刑事の田川が、ファンドマネージャーの小島から車の燃費偽装について説明を受ける場面が登場します。
「いかに低燃費の実績をたたき出すかは、メーカー同士の過酷な戦場です。言い換えれば究極のイメージ戦略であるF1と同じです。」
「試験には一般市販車ではなく、燃料測定に使用を合わせた特注品を持ち込むケースが多いのです。」
まさに、三菱自動車の燃費偽装を予言したかのような内容です。
現在の日本社会の本質を見抜いて見事な物語に仕上がっています。
物語は、身元不明となっている事件を丹念に追う田川刑事の足跡が追う形で進んでいきます。
本の帯に戸田書店鍋倉さんがこのような書評を書いています。
「特別な派手さもなく、名探偵でもないけれど、自分の調査を一つ一つ丹念に繰り返していく、田川の『糸』のような仕事が、巨悪を締め上げてゆく様は圧巻だった」
まさに、この様を実感しながら読んでいます。
相場英雄さんは、私の敬愛する作家さんの一人です。
相場さんの「震える牛」は、平成版の「砂の器」と言われました。
ガラパゴスは、平成版の「蟹工船」と言われています。
本作品は、第29回山本周五郎賞にノミネートされています。是非、受賞を願っています。
相場作品の映像化されたものはチェックしています。
WOWOWドラマになった「震える牛」「血の轍」どちらも秀作でした。
関係者の皆さん、もう検討中かとは思いますが、「ガラパゴス」の映像化をよろしくお願いいたします。
出来れば、映画として「ガラパゴス」を観たいものだと思います。
田川刑事は誰がいいでしょう。仲野は誰がいいでしょう。
連休の後半で一気にガラパゴスを読了したいと思っています。
相場さんの作品には、不正義を憎む心と泥臭さと人間に対する愛情が詰まっていると思います。
相場さんいい作品をありがとうございます。
相場さんこれからも大いに期待しています。
「ガラパゴス」を読んだ方は感想をお教え下さい。
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