NHKの土曜ドラマ「空白を満たしなさい」が先週の土曜日で終了しました。
原作は、平野啓一郎さんが書いた同名の小説です。平野啓一郎さんを敬愛する一人として、原作を読みながら、ドラマを見ながらの数カ月でした。
ドラマのストーリーを小説の文庫の裏表紙を引用することで紹介に換えたいと思います。
「ある夜、勤務先の会議室で目醒めた土屋徹生は、帰宅後、妻から『あなたは3年前に死んだはず』と告げられる。死因は『自殺』。家族はそのため心に深い傷を負っていた。しかし、息子が生まれ、仕事も順調だった当時、自殺する理由などない徹生は、殺されたのではないかと疑う。そして浮かび上がる犯人の記憶・・・。」
「全国で生き返る『復生者』たち。その集会に参加した徹生は、自らの死について衝撃的な真実を知る。すべての謎が解き明かされ、ようやく家族に訪れた幸福。しかし、彼にはやり残したことがあった・・・。生と死の狭間で『自分とは何か?』という根源的な問いを追及し、『分人』という思想が結実する感動長編。」
「複生者」や「分人」など、聞きなれない言葉も多いと思いますが、是非、ドラマと小説を楽しんでいただきたいと思います。
ドラマにも小説にも出てくる「ゴッホ殺しの犯人」の話は、平野啓一郎さんの「分人」という思想を理解する上で、私にとっては「目から鱗が落ちる」ことを実感しました。
画家のゴッホは、40点以上の自画像を残しています。
ゴッホは拳銃で自らの命を終わらせました。
ゴッホの自画像には、自らが耳を削ぎ落した後に描いた「パイプを銜えた包帯の自画像」があります。
ドラマでは、徹生につきまとう佐伯が、小説では、NPO法人代表の池端が、「ゴッホ殺しの犯人」の話をします。
ドラマと小説では、「他のすべてのゴッホが、寄って集って、この狂気のゴッホを殺した」との仮説を立てます。
小説には、同じ「復生者」であるポーランド人のラデックさんが自死した徹生にこう語る場面があります。
「私たちは、自分の人生を彩るための様々なインク壺を持っています。丹念にいろんな色を重ねていきます。たまたま、最後に倒してしまったインク壺の色が、全部を一色で染めてしまう。そんなことは間違っています。」
私は、ドラマと小説を読んで、平野さんの「分人」という思想を次のように理解しました。
個人は、様々な「分人」で構成されている。
社会の規範に忠実な「分人」が個人の中心となり、自殺に追いやるケースがあるのではないか。
個人は、社会の規範やジェンダーなどに縛られることなく、個人の中に多様な「分人」がいることを理解することが大切ではないか。
自死した人の家族やその社会を形成する人々は、故人には、様々な「分人」があったことを理解することが大切ではないか。
数年前に、平野啓一郎さんの「分人」の思想に出会い、本ブログにもコラムを書いている通りです。
ドラマ化を通じて、平野さんの「分人」の思想を再認識する機会を得て、まさに「命の洗濯」をした想いです。
この秋には、平野さんが原作の映画「ある男」の上映が始まります。この夏、平野さんの「ある男」をしっかり読んで、「分人」思想を高めながら、映画の上映に臨みたいと思います。
今日から、ドラマ「空白」ロスで、心が「空白」になりそうですが、これからも敬愛する平野作品に触れながら、日常を過ごしていきたいと思います。
平野啓一郎ファンの皆さん、ドラマ「空白を満たしなさい」の感想を始め、小説の感想をお聞かせ下さい。
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