引き続き、帚木蓬生著「日御子」を読んでいます。
九州にあった那国の通訳として「あずみ」(代々中国や韓国との交易の通訳をしてきた)一族の灰が、漢へ渡り光武帝に謁見し、金印を授かる場面が、物語の冒頭に出てきます。
教科書にも出ている有名な「漢委奴国王印」の金印の日本に渡来してきた経緯を語る物語です。
灰は孫の針に「『那国』が『奴国』として漢の皇帝に伝えられ、授かった金印が『奴国』と刻まれた」ことは、自分の大きな失態だと語ります。
文庫の「解説」で文芸評論家の末國善己さんは、この点を次のように解説しています。
「ここに漢の役人の傲りと、発展途上国への差別感情を読み取ることは安易にできよう。そして先進国の漢に、日本の名誉を認めさせることが『あずみ』一族の悲願になっていくのである。」
そして、針も通訳として漢に渡ります。今、この辺りを読んでいます。
更に、本書のタイトルについてです。
「日御子」は「ひみこ」と読みます。
一般的な「卑弥呼」と「日御子」は同じ言葉です。
作者はなぜ、「日御子」としたのか、末國さんは次のように書いています。
「灰は、『卑しさを意味する(卑)』も悪字の一つとしている。おそらく本書のタイトルが、一般的な『卑弥呼』ではなく『日御子』とされているのは、『魏志倭人伝』の作者が、良字の『日』を悪字の『卑』に書き換えたとの判断に基づいているのではないだろうか。『後漢書』や『魏志倭人伝』の著者は中国人であり、聞きなれない国名や人名は、耳で聞いた音に適当な漢字を当てていたようなので、途上国への偏見があれば、(意識的か、無意識かは別にして)悪字を使う可能性は十分にあったはずだ。」
金印の「奴国」の「奴」の字は何度も目にした文字でしたが、このような解釈があることを初めて知りました。
また、卑弥呼の「卑」の文字も中国側から見た文字であるとの解釈も新鮮でした。
今日、日本と中国、日本と韓国との関係は逆転したかのように捉える歴史観が広がる状況にあります。
末國さんは、昨日紹介した「あずみの掟」の一つ「人を恨まず、戦いを挑まない」を引用して昨今の日中・日韓の状況をこう書いています。
「韓国、中国への差別を平然と口にするヘイトスピーチの嵐が吹き荒れ、軍事力には軍事力で対抗すべきという声も高まっていることで『人を恨まず、戦いを挑まない』も排斥されつつある。」
今、米海軍の空母でコロナウイルスの感染が拡大しています。
南シナ海で活動していた米原子力空母セオドア・ルーズベルトでは、感染爆発が発生し、航行不能となり、グアムへ停泊しています。
横須賀基地を母校にしている米原子力空母ロナルド・レーガンも、「30人近い」感染者の存在が明らかになりました。
にも関わらず、レーガンが出航に踏み切り、空母艦載機部隊の空母離着陸訓練(FCLP)が硫黄島で始まり、岩国基地が予備基地に指定されました。
コロナ禍の中で、米空母が出航したことについて昨日のしんぶん赤旗「日刊紙」は次のように報じています。
「レーガンも同様のリスク(コロナウイルス感染)を抱えながら出航に踏み切る背景には、南シナ海や東シナ海での、中国との覇権争いがあります。佐世保基地(長崎県)の強襲揚陸艦アメリカと沖縄の第31海兵遠征隊(31MEU)が、ルーズベルト離脱の空白を埋めるため、南シナ海に展開していましたが、これ以上の航海延長は困難です。一方、中国海軍は4月、空母『遼寧』など6隻を、沖縄本島~宮古島の間を往復させ、公船が尖閣諸島で領海侵犯を繰り返すなど、コロナ禍でも力を誇示しています。新型コロナウイルスという、全人類が結束して立ち向かうべき脅威が目の前にいるにもかかわらず、米中両国は、『軍事対軍事』のパワーゲームを繰り返しています。」
今こそ、「あずみ」の掟「人を恨まず、戦いを挑まない」社会の到来をコロナ禍は私たちに教えてくれていると思います。
「あずみ」は、今の外交官のような存在でしょう。
2世紀から3世紀の時代に、「あずみ」が国内外でどのような和平交渉にあたったのか、引き続き、「日御子」からしっかり学んでいきたいと思います。
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