浅田次郎の『獅子吼」を読んでいます。
この本は、浅田さんの短編小説6編を収めた小説集です、
、表題でもある「獅子吼」は、浅田さんの思想が凝縮された優れた「反戦小説」だと思いました。
農学校畜産科を卒業した愚直な草野二等兵は、近くの動物園の飢えた動物達に残飯を届けようとして上官に見つかります。
草野は、こう考えます。
「人間が戦死するのは仕様ねだども、戦争をしてねえ動物が飢えて死ぬのは、あまりにも無慈悲でがんす。」
一方、動物園の中のライオンの大将は、人間による戦争についてこう考えます。
「肉体よりもすぐれたものを、どうして人間は造り出したのだろうか。自分の足よりも速いもの、自分の腕より、靭いもの、自分の牙や爪よりも鋭いものを。やがてそれらが自分を傷つけ、過分な欲望の基となり、ひいてはそうした必然の結果を神仏の規定した運命だと錯誤することになるのだと、どうして気付けなかったのだろう。たとえそれが太古の人間の浅知恵によるものだったにせよ、長い歴史の途中でただのいちども考えな直さなかったとは、あまりにも愚かしい。」
最終盤で、作家の浅田さんは、「大将」に戦争の本質について次のように語らせています。
「これは戦争ではないか。恨み憎しみのかけらもない相手に、『敵』という名を付けて殺す戦争ではないか。」
ベトナム戦争の帰還兵で反戦活動家だった「アレン・ネルソン」さんの著作を思い出します。
ネルソンさんは、ベトナムで初めて人を殺した時こう心に決めたといいます。
「やつらはグークス(東洋人を蔑む言葉)であって、人間じゃないんだ。」
ネルソンさんは、沖縄で、日本国憲法9条を知り、「第9条こそが戦争をなくす唯一の道」だと亡くなるまで、戦争体験を語り9条の大切さを訴え続けました。
ネルソンさんは、「第二次世界大戦後、日本は世界中のどこにも爆弾を一個も落とさず、世界中の人々の命をだれひとりもうばっていません。これは第9条の力であり、この力を日本人みずからがもっと理解すべきだと思うのです。」と語っています。
「恨み憎しみのかけらもない相手に、『敵』という名を付けて殺す」戦争がなくなる日が来ることを願ってやみません。
だからこそ、私は、浅田文学を学んでいこうと思います。
この文庫版の解説で、ミュージシャンの吉川晃司さんが、「尚友」という言葉を使っています。
「書物を読んで昔の偉い人を友とする」という意味だそうです。
浅田さんを「尚友」として、しっかり学んでいきたいと思います。
近く「帰郷」という小説集の文庫版が出版されます。これも「反戦小説集」だとのことです。
近くこの小説集も読みたいと思います。
「獅子吼」は、何度も立ち返りたくなる私にとって大切な作品となりました。
浅田ファンの皆さん、好きな作品をお教え下さい。
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