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100分de名著「華氏451度」読書ノート①

 NHKEテレの「100分de名著」は私の好きな番組の一つです。
 マルクス「資本論」や「歎異抄」など、この番組で多くのことを学んできました。
 今月は、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」が取り上げられ、名古屋大学の戸田山和久教授が解説しています。
 「華氏451度」を原作としてフランソワ・トリュフォー監督による映画「華氏451」をDVDで観ました。細部に違いはありますが、作品の世界観を見事に描き出している映画だと思いました。
 解説の戸田山さんは、テキストの中で、今日「華氏451」を読む理由を2点述べています。
 第一は、現実を批判的にみる意味です。次のように書いています。
 「われわれの生きる現実を、ひょっとしたらこれは地獄かもしれない、という批判的視点から見る。これが、いま『華氏451度』を読むべき第一の理由です。」
 第二は、自分で考えることを促す意味です。次のように書いています。
 「すぐれた小説は、簡単にはその答えの出ない問いを読者に投げかけ、自分自身で考えることを促してくれるものでしょう。だから読むべきなのです。」
 「華氏451度」は、1950年代のアメリカのパロディとして書かれてあると戸田山さんは指摘します。その上で、1950年代のアメリカの特徴を4点挙げています。
 第一は、ファシズムの記憶が生々しい時代だということです。
 第二は、冷戦と核兵器の時代が始まった時代だということです。
 第三は、レッドパージが始まった時代だということです。
 第四は、大衆消費社会が本格化した時代だということです。
 戸田山さんは、第三と第四の点の関係を次のように書いています。
 「ブラッドベリは、テレビに代表される消費生活により、社会を覆いつくして始めた全体主義的傾向が隠蔽され、ひとびとが、社会に批判的な眼差しを向けることが困難になっていると気づきました。」
 戸田山さんは、社会に批判的な眼差しを向けることを躊躇う意識を体制順応主義という述べています。
 その上で、戸田山さんは、ブラッドベリは「体制順応主義者の地獄」をこの作品で描いたと述べています。
 体制順応主義者の地獄を生きる人々の象徴として描かれているのが、モンターグと妻のミルドレッドです。
 妻のミルドレッドは、耳にいつも巻貝を付けています。そうです、21世紀を生きる私たちが付けているイヤホンと同じです。ミルドレッドの姿を通して、彼らが暮らす「体制順応主義の地獄」の特徴を戸田山さんは4点挙げています。
 第一は、テクノロジーに媒介されたコミュニケーションが優勢な社会だということです。
 第二は、バーチャルな存在とコミュニケーションが優位な社会であるということです。
 第三は、すぐに答えを迫る社会だということです。
 第四は、この社会はひとびとはみな取り替えのきく存在であるということです。
 戸田山さんは、第三の点に関してテキストでこう書いています。
 「モンターグはすぐに返事をすることが当たり前だと思っている。即答が強制されている社会だからです。立ち止まってゆっくり考えてはいけない。反省的思考ではなく、反射的思考が推奨されている社会なのです。実際、すぐに答えが出る問いだけでコミュニケーションできるならば、余計なことを考えなくて済むので気楽かもしれません。」
 6月13日号のしんぶん赤旗日曜版で、戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんが、新型コロナウイルス感染が広がる中、東京五輪・パラリンピックを強行しようとする無謀さは、「戦中との共通点がある」と次のように指摘しています。
 「『インパール作戦』とは、太平洋戦争末期の1944年3月から7月にかけて、日本陸軍が今のミャンマーからインド東部に向けて行った侵攻作戦です。作戦を指揮した軍司令官の牟田口廉也は、兵站の維持の困難さなどを指摘した参謀を排除し、作戦を強行しました。その結果、餓死者、病死者が続出し、9万人の兵士が1万人になってしまいました。安倍・菅政権の新型コロナ対策と東京五輪開催への前のめりの姿勢は、これらの戦中の減少と極めて似通っています。自らの政治的野心と政治基盤の維持を優先させ、中止のタイミングを逸し、開催を強行するかたくなな態度を崩していません。国民の多数の反対を一顧だにせず、開催強行にまい進する菅政権の態度は、インパール作戦を強行した牟田口の姿をほうふつとさせます。菅首相は『感染状況がこうなれば五輪を中止する』という基準すら示すことを拒否しています。開催ありきのIOC(国際オリンピック委員会)に同調して、自国民の命と健康を優先第一位にしない無責任な『人命軽視』の姿勢です。」
 私たちが、「華氏541度」で描かれている「体制順応主義者の地獄」の世界に生きている現実があるのなら、今の現実に疑問を持ち、少しつづ、発言をしていくことが必要ではないでしょうか。
 今、国会で審議されて土地利用規制法案についても大いに疑問を持つ必要があります。
 10日の参議院内閣委員会での日本共産党の田村智子参議院議員の質疑で、小此木大臣は「機能疎外行為」が行われているとみなした場合は国が強制的に取得する土地収用を検討していることを明らかにしました。まさに、この法案は、戦前の「要塞地帯法」に酷似しています。
 政府与党は、来週の委員会で採決を強行し、会期中に成立を狙っていますが、一人一人の国民が今、発言すべき時です。
 「華氏451度」は、モンターグの成長記でもあります。モンターグは出会うクラリスなどの「教師」によって「体制順応主義の地獄」から抜け出していきます。
 100分de名著「華氏451度」は、今日、第三回目の放送が行われます。明日を入れてあと二回の講座ですが、戸田山教授からしっかり、「華氏451度」を学び、現実の社会を少しでも変えるヒントにしたいと思います。また、原書の翻訳本を少しづつ読んでいきたいと思います。
 レイ・ブラッドベリ著「華氏451度」に関し、皆さんのご意見、感想をお聞かせ下さい。

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