5月19日、しんぶん赤旗日刊紙に歌人の盛田志保子さんの「話題作を読み解く」で、阿部暁子著「カフネ」が取り上げられていました。盛田さんは、「カフネ」を次のように解説しています。
「2025年本屋大賞受賞作である。主人公の野宮薫子は41歳、法務局に勤務している。数年にわたる不妊治療は実を結ばず、夫は出ていき、一人で苦労していた矢先、最愛の弟、春彦を失う。突然死だった29歳の春彦は遺産の相続人として、元恋人である小野寺せつなの名前が記されていた。薫子は手続きを進めようとせつなを呼び出す。『遺産は受け取らない』と一点張りのせつなに、薫子は頭に血をのぼらせて倒れてしまう。仕事柄、外では常にきちんとしている薫子だが、本当は心身ともに限界を超え、独り暮らしの部屋では家事も食事もままならず、たまったゴミの中でぼろ雑巾のようになっていた。そのことに本能的に気づいたせつなは、そっけないが素早く的確な行動力で薫子を底なし沼から引っ張り上げる。『おいしいものを作る』という最強の武器を使って。一番弱っている時に、一番大切な『安心』と『おいしい』をほぼ初対面で一回り年下のせつなから受け取ってしまった薫子。偶発的な、つかの間の、しかし決定的なこの出来事が最後まで物語の根幹にあり、かなしみの真っただ中にあっても薫子の命を燃やし、動かし続ける。薫子にとってせつなは命の恩人なのだ。せつなは家事代行サービス会社カフネに勤務するプロの料理人だ。カフネはポルトガル語で『愛する人の髪に指を通すしぐさ』という意味。カフネでは毎週土曜日、困っている人に2時間の家事サービスを提供するボランティア活動も行っている。薫子はそれを手伝うことになった。料理担当のせつなと掃除担当の薫子、二人組の働きぶりが気持ちいい。行く先々の家には事情があり、そこには踏み込めないルールだが、二人はできる限り役に立とうと奮闘する。疲弊した依頼者たちに、二人の仕事は喜ばれる。貧困や介護、子育て、孤立の問題を個人の力だけで解決することは難しい。今日この世界で、おいしいごはんを食べ、整った部屋で眠れることがどれほど幸せか。そこからしか人は立ち上がれない。だからこそ助けてほしいときに助けてと言える社会であってほしい。訪問先で、自分たちの未来は暗いと息巻く5年生の少女の言葉に、せつなは静かに共感し、でも・・・と続ける。『おにぎりを作れるようになると、人生の戦闘力が上がるよ』。おしゃべりしながら、みんなで握ったチャーハンおにぎりー。おいしいものは味覚だけでなく、色や匂い、感情や記憶など様々な感覚に訴え生きる力を呼び起こす。せつなの料理が誰かの人生を変えるのは、根底に相手を思う優しさがあるからだ。春彦が二人に残した本当の贈り物はなんだったのか。形のないものを形にすることのすてきさに胸がいっぱいになる。春の光のような余韻が残る一冊だ。」
料理をテーマに扱っているレシピ本かのような先入観を持って読んでいると、人生にとって料理がいかに大切かが分かる本です。
順風満帆ではない時こそ、食を見つめなおすことは、人生を見つめなおすことになることが分かりました。
私のパートナーが、この春から自宅でカフェを始めたこともあり、人生と食を考えながらこの本を読んでいます。
薫子の人物像の掘り下げ方に、阿部さんの筆致が冴えわたっています。そのことが、この本をより多くの人に共感させる力となっています。
圧巻は、せつなという人物の描写です。鉄のような人だと思っていたら、陶器のような人に思えてきて、読み進むほどに、見え方が変わってきます。この辺りが、この本を本屋大賞に押し上げた力だと思います。
ほぼ毎年、本屋大賞の大賞作を読んでいますが、この作品も、私の人生を豊かにさせる一冊になることは間違いありません。
人間は、人間との間で、成長できることが分かる一冊です。ボロボロになっても、きっと支えてくれる人がいる。敵だとか、苦手だとか思っている人が、意外に、味方になってくれることにも気づかせてくれる本です。
食の貧困と格差など、社会的な問題にも向き合っている所も興味が湧く一冊です。
阿部暁子さんの他の本も読んでみたいです。「カフネ」を読まれたみなさん感想をお聞かせください。
春彦が、薫子とせつなに残した本当の贈り物が何だったのか 知りたいです。
このことを心に置きながら読み進めています。
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