全国商工新聞、5月20日号の「私たちの主張」は、「地方自治法『改正』案」について次のように述べています。
「地方自治法『改正』案が国会で審議されています。国に広範な『指示権』を与え、自治体を従属させる仕組み作りが狙われています。『戦争する国』につながる悪法を断じて許すことはできません。改定案は『国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合』に閣議決定で自治体に義務を課すことができます。災害や感染症を例示するものの『その他』『これに類する』など範囲は曖昧で、行政府の恣意的運用は可能です。岸田政権は、沖縄県の民意も、地方自治も無視して辺野古新基地建設を強行してきました。改定案が成立すれば、戦争への自治体動員が容易になります。戦前の中央集権的な体制の下で、自治体は戦争遂行の一翼を担わされました。その反省から憲法には『地方自治』が章立てされ、『団体自治』と『住民自治』が保障されました。ところが、改定案は国の指示・代執行などの強力な関与を『法定受託事務』で温存し、『自治事務』にも広げます。岸田政権は『台湾有事』を口実にして南西地域を中心に、空港・港湾の軍事利用拡大を進め、改定案は国の判断で、自衛隊の優先使用を指示できるようにします。改定案の根拠に『コロナ禍の教訓を踏まえた』ことを挙げていますが、自治体の首長たちからは、『国の指示を受けることなく感染拡大防止の知恵を出した』『感染拡大時も国からの指示がないために問題が起き、混乱した事実はない』との発言が相次いでいます。元旦に発生した能登半島地震の復旧や被災者支援が遅れている要因も、地方公務員を減らし、地方の財源を削ってきたからです。国による指示権の導入など誰も求めておらず、むしろ迅速な対応への権限や財源、人材育成を自治体に保障すべきです。国会では審議入りした直後から野党の批判が相次いでいます。『地方分権の流れを逆回転させる』(立民)、『国に求められていることをやらず、災害やコロナに乗じて、地方自治破壊の仕組みを導入する』(共産)と問題点を鮮明にしています。世論と運動で改正案を廃案に追い込み、『地方自治の本旨に基』づく住民の平和的生存権を保障する社会への展望を開きましょう。」
専修大の白藤博行名誉教授が21日の衆院総務委員会で、地方自治法改定案について行った意見陳述の要旨は次の通りです。
「 法案では『国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国と地方公共団体との関係等の特例』を新設しますが、『国民の安全に重大な影響を及ぼす事態』(非平時)とは一体何なのか、概念的な曖昧さが残ります。『個別法の規定では想定されていない事態』が念頭に置かれていますが、専門行政領域ごとの個別法でも想定できない事態であれば、地方自治法という一般法でも想定できるはずはありません。地方自治法において、およそ想定し得ない事態を想定して、その事態に対する権限を一般的・抽象的に行政権に授権することは、いわゆる『白紙委任』であり、行政の授権と統制の法として、できるだけ要件と効果を厳密に定めようとする行政法の世界では想定しがたいことです。地方制度調査会専門小委員会では『非平時』の範囲について、自然災害、感染症、武力攻撃が同時・並列的に議論されてきました。この議論にのっとれば、当然に『武力攻撃』等が『非平時』の範囲に含まれることになります。例えば『存立危機事態』(集団的自衛権行使の要件)に対処するための『事態対処法』などで想定されていない事態が起きれば、それは指示権の「発動要件」に該当するのではないでしょうか。『国民の安全に重大な影響を及ぼす事態』の範囲が『被害の程度』に着目した概念である限り、おのずと国の『指示権』発動の範囲も無限定に広がります。『国民の安全に重大な影響を及ぼす事態』というのは『発動要件』としては無内容な規定だと言わざるを得ません。また、国の関与を最大限抑制すべき『自治事務』と『法定受託事務』を一緒にしてしまっています。事務処理の適法・違法も問わず、関与の事前・事後の区別もありません。到底、『地方分権改革』の趣旨に合うものではありません。地方自治法の趣旨・目的に逆行する『逆分権化』の徴候が見られます。憲法及びその付属法であるとされる地方自治法を理念的・構造的・機能的に破壊する改定です。緊急事態においてこそ徹底した分権化を図り、むしろ自治体が司令塔になって第一義的に事態に対処すべきです。緊要なのは『危機管理の国化・集権化』ではなく『危機管理の現場化・地域化』です。」
白藤先生の地方自治法の「逆分権化」を図るものとの指摘は重要です。
地方自治法改悪を許さない運動をともに強めたいと思います。
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