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映画「戦争と人間」三部作(9時間23分)を観ました

 ある歴史の学習会で、参加者の方が、「山本薩夫監督の映画『戦争と人間』のDVDを観たい人は貸す」との申し出あり、私は、手を挙げて、ほぼ1週間かけて映画「戦争と人間」を観ました。
 「戦争と人間」は、レンタルDVDにもありません。ネット映画にもありません。いつか観たいと思っていた作品でしたが、ようやくチャンスが巡ってきました。
 一部「運命の序曲」の本編が197分、2部「愛と悲しみの山河」の本編が179分、3部の「完結編」の本編が187分。
 合計563分、9時間23分の長編作です。ここ数年では、これほどの長編作品はありません。
 滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、吉永小百合など、当時の映画界のキャストを総動員した作品です。
 DVD三部作の解説本に、映画評論家の増當竜也さんはこの映画について次のように評しています。
 「これは日中戦争を背景に、日本の財閥や軍部がアジアを侵していく中で、さまざまな人々がうごめきひしめきあう姿を壮大な群像劇として描いたものだが、ここでは日本の武力進出をあっきり侵略と定義し、その軍国主義を批判するとともに現代の観客に問題提起を促すという強固な反戦映画の構えとなっている。」
 「戦後の日本では、過去の戦争を反省する多数の反戦映画が製作されてきた。しかしその内容の多くは、戦場で日本人が無残に死んでいくから悲しいといった厭戦的なものである。もちろんこの厭戦の想いは戦争否定の根源として絶対になくしてはならないものであり、その意味での傑作秀作は数多く生まれている。しかし戦争とは相手がいることによって初めて行われるものである以上、相手の存在をうやむやにしたまま自己反省ばかりしていても、そこからさらに前進することは困難であろう。現に、昔も今も日本の戦争映画に敵がちらほら登場することはあっても、きちんと描かれることは稀なのだ。総合的に戦後日本の戦争映画の弱点は、反戦と厭戦の別を曖昧にしたまま全てを反戦と称してしまっているところにあるようにも思えてならない。」
 パルチザン役の地井武夫さんが、銃弾に倒れた恋人木村夏江さんを雪原に埋めるシーンは圧巻でした。
 「戦争と人間」の第一部は1970年に公開されています。1964年生まれの私が小学校に上がる頃です。
 解説本に、製作者や出演者の生年月日があります。監督の山本薩夫さんが1910年生まれ、伍代由介役の滝沢修さんが、1906年生まれ。戦争を知る方たちが、戦争を知らない私たちに戦争の真実を伝えようと言う迫力に満ちた反戦映画が「戦争と人間」でした。
 張作霖を爆殺した事件や盧溝橋事件など、関東軍自らが起こした武力行使によって、それを口実に、関東軍が軍事行動を強めていくという歴史の理不尽さをこの映画は見事に描いています。
 この映画に触発され、満州国の成立と戦争に加担する日本の姿を描いた船戸与一さんの「満州国演義」を読み始めています。
 文庫版の第一巻「風の払暁」の解説で、直木賞作家の馳星周さんが「太平洋戦争に突入する前の日本を描いて、その様相は現代の日本とあまりにも酷似している。」として次のように書いています。
 「理性ではなく情緒に流れる世論。声の大きいものの意見がまかり通り、目的のためには手段を選ばずという輩が跋扈する。在特会やネトウヨといった声のでかい反知性主義者が大きな顔をし、目的達成のためには数を力に頼って憲法解釈を無理矢理変えて恥じることのない安倍政権。まるで双子を見ているかのようではないか。七十数年前の情緒に支配された日本は破滅へとひた走った。現代の日本はどこに向かおうとしているのだろう。」
 馳さんがこの文章を書いたのは、2015年6月、第二次安倍政権が発足し、安保法制=戦争法を強行する最中のものです。
 「目的のために手段を選ばずという輩が跋扈する」中で、その戦争が始まったことを映画「戦争と人間」で再認識しました。
 安倍政権時代に「目的のために手段を選ばずという輩が跋扈する」事件の一つが「森友」疑惑でした。
 学校法人森友学園への国有地の異常な安値での払い下げをめぐり公文書の改ざんが強いられ、自死した近畿財務局職員の赤木俊夫さん。
 赤木俊夫さんが経過を記したとされるファイルについて、国が存在を認めました。
 財務省は、「赤木ファイル」を「黒塗り」せず、全面的に開示すべきです。
 官僚機構が、「目的のためには手段を選ばずという輩」に支配されるのか、それを抜け出すのか。「赤木ファイル」の開示は、重要な意味合いを持っていると思います。
 70年前、「目的のためには手段を選ばずという輩の跋扈」を許した背景には、映画「戦争と人間」に描かれている通り、国の戦争政策に物申す日本共産党を始め、国民の言論を弾圧し、国の政策にものが言えなくなる状況が作られたからです。
 再び「目的のためには手段を選ばずという輩を跋扈」させないためには、安倍政権が強行した安保法制=戦争法以降、強固に発展してきた市民と野党の共闘の力を更に大きくしていくことだと映画「戦争と人間」を観て感じました。
 映画「戦争と人間」、70年前の戦争を知らない私たち大人一人一人が今観るべき作品だと痛感しました。
 映画「戦争と人間」をご覧になった皆さんの感想をお聞かせ下さい。

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