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柳広司著「アンブレイカブル」読書ノート(鶴彬編)

 4月4日付しんぶん赤旗日曜版に作家の柳広司さんのインタビュー記事が掲載されました。
 柳広司さんの近著「アンブレイカブル」が取り上げられていました。
 私は、書店に急いで、この本の一遍を先ほど読み終えました。
 その理由は、私が最も敬愛する川柳作家・鶴彬が、この本の一遍で取り上げられているからです。
 鶴彬の部分のしんぶん赤旗の記事の部分を紹介します。
 「2編目は、川柳作家・鶴彬を描く『叛徒』です。鶴彬は『手と足をもいだ丸太にしてかえし』など反戦川柳で知られます。『川柳はもともと好きで、鶴彬の名は田辺聖子氏の川柳作家評伝『道頓堀の雨に別れて以来なり』(1998年)を読んで印象に残りました。鶴彬の魅力は、人物と川柳というメディアが合致しているところです。物事の本質にまっすぐに飛び込み、作品として提示できる。川柳という形式と鶴彬という存在が分かちがたい。川柳には(穿つ)という言葉があるそうですが、鶴彬はまさに現実を穿つ(穴を開ける)人物だったと思います。」
 柳広司著「アンブレイカブル」の鶴彬の章「叛徒」の中で、丸山憲兵大尉の元に次の告発状が届きます。
 「昨今、川柳人の中に時局に処する日本人としての愛国の至情を著しく欠くと思しき、以下のごとき非国民的作品を発表する者が見受けられます。『重税の外に献金すすめられ』『人間へハメル口輪を持ってこい』『タマ除けを産めよ殖やせよ勲章をやろう』殊に第三句、鶴彬の作に至っては言語道断。国民精神総動員、遵法週間が叫ばれる昨今、あまりに非愛国的、あまりに叛逆的と言わざるをえません。同じ川柳を嗜む者として慄然たる思いであり、遺憾ながら茲にご報告申し上げる次第であります。当局に於かれましては何卒、鶴彬ならびに彼ら叛逆的川柳人に対して厳しい監視とご指導を賜りますよう、我等柳壇一同、伏してお願い申し上げます」
 作者の柳さんは、この手紙について「書き手が上目づかいに卑屈な笑みを浮かべているのが、目に浮かぶようだ。」と書いています。
 この作品には、特高のクロサキがどの章にも登場します。
 特高のクロサキは、憲兵の丸山に「あなたたちも早晩、我々と同じ道を辿ることになる。我々は所詮一本の道の上にいて、どこまで進んだかに違いがあるだけだ。」と話します。
 作者の柳さんは、クロサキの言葉の意味をこう解説しています。
 「それなら何のために二つもの組織が必要なのか。共産主義の取り締まりだけなら、その先は少なる仕事を奪い合うか、さもなければアカの定義を無限に拡張していくしか道は残されていない・・・」
 治安維持法の下で、小林多喜二も鶴彬も三木清も命を奪われた事実を作者の柳さんは今日に問います。
 柳さんは、しんぶん赤旗のインタビューでこう述べています。
 「権力の側には、治安維持法に基づいているという合法意識があります。自分たちが合法であり正義だと。それはいまの香港やロシア、日本もそうでしょう。この小説で書いたような状況は、弾圧を正当化する法律と官僚組織があれば、いつでも発生しうることです。特高警察も憲兵も、自分たちの仕事を遂行することで権力によるテロリズムとなり恐怖政治につながりました。では、どうするのか。そこで立ち止まって考えるための、普遍的な問いかけとなればと思ってこれを書きました」
 先日の中国新聞に、作家の保坂正康さんの「かるた・川柳にこめた皮肉」という随想が掲載されていました。
 保坂さんは、江戸時代の川柳やかるた以降、日本社会には風刺や抵抗の精神があったと述べた上で次のように書いています。
 「この何年かこうした風刺の精神が泡沫のように消えてしまった。この精神がどの分野でも衰弱してしまった。政治家、官僚が現在ほどルールを踏み外している時代はないと思うのに、風刺、抵抗の言論は消えてしまった。自戒を込めての言になるが『どうした日本人!先達に恥ずかしいぞ』と私もつぶやいているのである。」
 先日、古川柳の伝統と「川柳中興の祖」井上剣花坊が探求した「現代川柳」を探求する川柳結社「東京川柳会」の同人に推薦いただきました。
 井上剣花坊生誕150周年記念誌上川柳大会で、私のいくつかの句を佳作にしていただきました。
 「子どもらに剣を持たせるような国」
 鶴彬は、井上剣花坊が主催する「川柳人」に多くの作品を発表しました。
 先達に恥ずかしくない句を「東京川柳会」で発表していきたいと思います。
 柳広司さんの「アンブレイカブル」は、「叛逆」を読み終え、今、小林多喜二を扱った「雲雀」を読んでいます。
 「アンブレイカブル」は今年1月29日に発行されたばかりの新刊です。一人でも多くの方に書店で手に取っていただきたいと思います。
 読まれた方は感想をお聞かせ下さい。

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