昨日、横山秀夫さんの近著「ノースライト」を読み終えました。
「一級建築士の青瀬は、信濃追分へ車を走らせていた。望まれて設計した新築の家。施主の一家も、新しい自宅を前に、あんなに喜んでいたのに・・・。Y邸は無人だった。そこに越してきたはずの家族の姿はなく、電話機以外に家具もない。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた『タウトの椅子』を除けば・・・。このY邸でいったい何が起きたのか?」
一家失踪の謎を追うミステリーは、人を無残に殺害する場面がありません。(一部それに近いところがありますが・・)
本書の帯に「横山ミステリー史上最も美しい謎」と書かれてある理由が、ラスト100ページを超えたあたりから明らかになります。
世界的な画家である「藤宮春子メモワール」の設計を青瀬のいる設計事務所が受注できるかどうかも大きなテーマです。
小説中盤で藤宮春子が遺したとされる詩が出てきます。
「埋めること 足りないことを埋めること 埋めても埋めても足りないものを ただひたすれ埋めること」
藤宮が、学徒出陣で亡くなった従兄を想い描き続けたとのエピソードが心に沁みました。
そう考えると、小説のテーマが「足りないことを埋めること」のように思えてきました。
主人公の青瀬も、Y邸の施主家族も。
Y邸に残されていたタウトの椅子がこの小説の底流に流れています。
タウトは、実在の人物で、小説の中でこう紹介されています。
「昭和初期、ナチス政権による迫害から逃れるためベルリンを脱出し、日本に渡ってきた。桂離宮の建築美を『再発見』し、日本の工芸品の普及とデザイン向上に尽力した人物。」
Y邸の施主の足跡を追う中で、タウトの足跡が浮き彫りになります。
小説を読みながらタウトが滞在した洗心亭に行ってみたくなりました。
一人ひとりの描写は見事です。
何度でも人生はやっていける。人生は捨てたもんじゃない。
一人ひとり注がれる視線の温かさは、横山ミステリーの真骨頂です。
スクープ記者・繁田に注がれる目の温かさに、横山さんの小説が好きな理由を見つけました。
きっと、この小説は映像化されるでしょう。主人公の青瀬は、浅野忠信さんはどうでしょう。
関係者の皆さんよろしくお願いします。
横山さんこれからも良質のミステリーを輩出して下さい。
次回作、お待ちしています。
横山秀夫ファンの皆さん、「ノースライト」の感想をお聞かせ下さい。
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