第16回開高健ノンフィクション賞を受賞した川内有緒さんの「空をゆく巨人」を読んでいます。
この作品は、二人の男性を取り上げています。
一人は、現代美術界の巨星、蔡國強(ツァイ・グオチャン)さん。もう一人は、福島県いわき市で小さな会社を経営する志賀忠重さん。
特に私は、蔡さんの芸術家としての生き方に深い感銘を受けました。
蔡さんは、中国福建省で生まれ、29歳で来日します。天安門事件後、中国に帰ることを諦め、9年を日本で過ごします。
蔡さんは、その後、アメリカに拠点を移し、世界的な現代芸術家として成長します。
蔡さんが宇宙をテーマにした作品を作るきっかけになったのが、天安門事件でした。
川内さんは、次のように書いています。
「蔡一家は天安門事件の勃発により、帰るき故郷を失った。しかも、中国のパスポートでは他国に渡航したり、移住したりすることも安易ではなかった。何でこの世に国境なんてあるんだろう?蔡はその理不尽さを思い知った。『それで『自分が異星人だったら、国境なんて無視して越えていくだろう』というアイデアが浮かんだんです』」
蔡さんは、火薬を使った芸術作品を制作していますが、その理由を、蔡さん本人がこう語っています。
「人類はいつから国境を認知するという不幸な習慣を持つようになったのだろう。人類は文明のひとつの成果である火薬を、この本来損7財しない線の腕でもっとも多く使用してきたし、また今後も使用しつづけるだろう。火薬が国境線を超えるときは、つねに戦争という悪夢が再演される。」
蔡さんは、「キノコ雲のある世紀」という作品を制作していますが、その理由をこう語っています。
「20世紀物質文化の急速な発展とともに誕生した原子爆弾は、私たちとに気づかせたのです。人がつくった物質文明は、その果てに、人類自身を破壊させることもできるのだと」
蔡さんは、現代社会が抱えた問題に芸術家として体当たりして作品を作り上げています。
この辺りに蔡さんの芸術家として素晴らしさを感じます。
アートは、私たちの社会と切り離されたところにあるのではなく、社会の歪の中にあるのだと感じさせてくれる蔡さんの作品です。
物語の後半は、東日本大震災を経て、「いわき回廊美術館」を二人が作っていく経過が描かれます。
物語の後半もしっかり読み通していきたいと思います。
次男が芸術系の大学に通っています。次男に読んでほしい物語です。
いや、アートとあまり関わりのない生活を送る方々にも読んでいただきたい物語です。
生き方を揺さぶられる大きな物語だと感じます。
「空をゆく巨人」や川内有緒さんについて皆さんの感想をお聞かせ下さい。
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