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樋口英明元福井地裁裁判長が問う「南海トラフ地震181ガル(震度5弱)問題」

 2014年5月21日、関西電力大飯原発3・4号機の運転差し止めを命じる判決を下した裁判で裁判長だった樋口英明さんの「南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々」を興味深く読んでいます。
 特に、「南海トラフ地震181ガル(震度5弱)問題」は圧巻です。
 問題の構造を端的に示す部分の樋口さんの文章を紹介します。
 「2020年3月11日に広島地裁に提起した伊方原発3号機運転差止処分の裁判のなかで、住民側は『南海トラフ地震が伊方原発を直撃したらどうなるのだろうか、どれくらいの揺れが伊方原発の敷地を襲うだろうか、それに原発は耐えられるだろうか』という誰しもが抱く疑問を四国電力に投げかけました。それに対して、四国電力は『南海トラフ地震が伊方原発の敷地を直撃しても181ガル(震度5弱相当)を超える地震は来ませんから安心して下さい』と答えたのです。181ガルという地震動の合理性を審査すべき原子力規制委員会はこれについての審査をほとんどしていませんでした。広島地裁も広島高裁も、『181ガルの地震動予測に合理性がない』という住民側の主張に対して『181ガルが信用できないというのなら、南海トラフ地震が伊方原発を直撃した場合に何ガルの地震が来るのかを住民側で立証しなければならない』といって住民側の仮処分の申し立てを却下しました。」
 樋口さんは、四国電力が主張している「181ガル」の地震動について次のように指摘しています。
 「四国電力は、マグネチュード9の南海トラフ地震が伊方原発を直撃しても181ガルを越えないということを、①震源の深さが41キロメートルであること、②伊方原発周辺の地盤が固いということで説明しました。しかし、震源の深さ41キロメートルは特に深い地震とはいえないし、181ガルを超える地震はわが国では地盤の固いところも柔らかいところも含めていくらでも来ている地震です。181ガルは震度5弱に相当し、震度5弱は気象庁によると、『棚から者が落ちることがある、希に窓ガラスが割れて落ちることがある』という程度の揺れです。四国電力は、南海トラフ地震が伊方原発直下で起きても原発敷地だけがまったく異空間であるというようなものです。」
 樋口さんは、以上の四国電力の主張を「オウンゴール」だと指摘しています。
 その上で、樋口さんは、広島高裁の判決について次のように指摘しました。
 「今回の広島高裁は、住民側の主張に対して反論できずに黙ってしまった四国電力の言い分をそのまま裁判所の見解として採用したのです。裁判所が立証責任について裁判所の見解を述べる場合、言い負かされた方の四国電力の主張そのものではなく、それを深化させた理論でなくてはならないはずです。言い負かされた方の四国電力の主張そのものを裁判所の見解として採用することは、裁判所が最も大事にすべき公平性を害するだけでなく、より正当性の高い見解を積み重ね結論に至るという理論性をも失わせてしまう結果となるのです。」
 樋口さんは、この章の最後に、2001年6月12日付の法務省司法制度改革審議会の意見書の次の部分を引用しています。
 「ただ一人の声であっても、真摯に語られる正義の言葉には、真剣に耳が傾けられなければならず、そのことは、我々国民一人ひとりにとって、かけがえのない人生を懸命に生きる一個の人間としての尊厳と誇りに関わる問題であるという、憲法の最も基礎的原理である個人の尊重原理に直接つらなるものである」
 樋口さんは、「原発事故によって、国民の最も重要な権利である人格権の中核部分『生命を守り生活を維持するという権利』が極めて広範囲に奪われる」とも述べています。
 この夏、南海トラフ地震の緊迫性が高まりました。
 このような中、伊方原発の裁判で問われた「南海トラフ地震181ガル(震度5弱)問題」を皆さんと一緒に考えたいと思います。
 そして、原発そものについて一緒に考えていきたいと思います。
 その上で、ぜひ多くの方に、樋口英明著「南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫という人々」を読んでいただきたいと思います。
 読まれた方は、感想をお聞かせいただきたいと思います。

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