NHKEテレ100分de名著、今月は、「みすゞと雅輔」の著者である松本侑子さんが講師を務める「金子みすゞ詩集」がテーマです。
山口県在住の私としては、「みすゞ」に関連するいくつかの本を読んできました。
その中でも、みすゞの詩を保存し、矢崎節夫氏に渡したみすゞの弟である雅輔の人生を掘り下げ、改めてみすゞの詩の深さを著わした松本侑子さんの「みすゞと雅輔」は、とても感動した作品でした。
松本さんが講師ならばと思い、県内の書店でテキストを探しましたが、山口県であること故に、どこにもありません。
「注文しても増刷の計画はない」と言われ途方に暮れていましたが、「系列店に在庫がある」との書店に出会い、先日、ようやくテキストを手に取りました。
松本さんの解説によって、「みすゞ」を取り巻く複雑な家庭環境が良く理解出来ました。
私が、特に注目したのは、「みすゞの死」を時代背景から掘り下げられている点です。特にジェンダーギャップが激しい時代背景の中で「みすゞの死」が解明されている点に納得しました。
みすゞは1930年(昭和5年)3月に命を絶ちます。
みすゞは、手書きの詩集3冊を弟の雅輔と西条八十に送ったのは、1929年秋です。
松本さんは「小さな詩集でも出してもらえたら・・・という密な願いではなかったでしょうか。(中略)しかし昭和4年秋に送った後、二人から詩集発行の返事はありませんでした。童謡ブームが去って出版社は採算が見込めなかったこと、そもそも女性童謡詩人の評価が低かったことも挙げられるでしょう。詩人の与田準一は『かつてわたしは、日本の創作童謡は、マザア・グウスならぬファザー・グウスだと書きました。童謡運動の代表詩人を始め、(中略)作者たちの多くの作品が、その父親期の所産となっているからです』と『日本童謡集』(岩波文庫)に書いています。つまり、当時、若い父親だった白秋、八十、雨情の本は出ても、母であるみすゞ、さらに同じように童謡詩を多数書いていた与謝野晶子の詩集も刊行されなかったのです。」
昭和初期の時代は、女性は詩集が発行できないというジェンダーギャップがみすゞを死に向かわせた一要因だったと感じます。
みすゞは、亡くなる直前に離婚します。みすゞからかけがえのない娘が奪われます。この辺りを松本さんは次のように書いています。
「離婚後の敬一は、上京。雅輔日記によると、3月3日、敬一と雅輔は都内で会い、娘の療養について二時間、話し合います。戦前の民法では、子どもの親権は父親にのみありましたが、上山家では娘を引き取って療育したいと考えていました。しかし敬一は一人娘と別れることに同意せず、物別れに終わります。雅輔は、相手の言うことにも一理あると日記に書いています。妻から離縁を求め、一人娘もほしいとは身勝手だと敬一は考えていたのでしょう。そして元夫からみすゞに手紙が届き、3月10日に娘を引きとりに来ると書かれていました。その前夜の9日、上山文英堂に戻って暮らしていたみすゞは、娘を風呂にいれた後、睡眠薬を大量に摂取し、翌10日、他界しました。」
娘を奪われることが、みすゞの死の直接の原因だったことが、この文章から顕著に読み取れます。
「戦前の民法では、子どもの親権は父親にのみ」というのは、戦前の激しいジェンダーギャップです。
母子で暮らすことが許されないというジェンダーギャップが、みすゞを死に追いやった一要因だったと感じます。
更に、当時の時代状況について、松本さんは次のように書いています。
「この年、昭和5年は、世界恐慌が日本に波及して大不況となり、厭世的な世相となり、自殺者が急増、1年で約1万4千人が命を絶ちます。」
大不況と戦争に向かうという厭世的な世相がみすゞを死に追い詰めた遠因であったと感じました。
再び、今、厭世的な世相が存在しているのではないでしょうか。
パンデミックによる不況と雇用不安によりとりわけ女性の自殺者が増えています。
みすゞが生きた時代のジェンダーギャップの多くは解消されていますが、未だに、多くのジェンダーギャップは解決されておらず、現在の女性を苦しませ続けています。
ジャーナリストの伊藤詩織さんが山口敬之・元TBSワシントン支局長から性暴力を受けたととして1100万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が昨日、東京高裁でありました。中山孝雄裁判長に一審の東京地裁判決に続いて「元支局長が伊藤さんの同意がないのに行為に及んだ」と認定。治療関係費として2万円余りを増額した計約332万円の支払いを元支局長に命じました。この判決は、ジェンダー平等への追い風になるものだと感じます。
「みすゞの死」の背景について、松本さんが書かれたテキストから学びながら、ジェンダーギャップが解消される社会の実現を願っていました。
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