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町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」

 2021年本屋大賞第1位に輝いた町田そのこさんの「52ヘルツのクジラたち」を読みました。
 2020年本屋大賞第1位の凪良ゆうさんの「流浪の月」も良かったですが、町だそのこさんの本書もとても読み応えのある作品でした。
 二つの作品に共通しているのは、現代の社会の空気を鋭く描いている点だと感じました。
 本作の裏表紙からストーリーを引用します。
 「52ヘルツのクジラとはー 他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され『ムシ』と呼ばれてきた彼らの出会い、孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれるー。」
 この作品には、ヤングケアラー、虐待、DV、LGBTQなど今日的な問題が次々に登場します。
 映画「マザー」の原作ともなっている山寺香著「誰もボクを見ていない なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」に描かれた少年と母親を彷彿させる貴瑚が大分で出会う母親の少年に対する肉体的精神的な虐待です。虐待の場面は凄まじくリアルです。
 その貴瑚も母親から精神的虐待を受け、高校卒業後、父親の介護を強いられていました。
 本作の後半に貴瑚が少年にこのように語る場面があります。
 「わたしはあんたを救おうとしてたんじゃない。あんたと関わることで、救われてたんだ」
 貴瑚は少年と一緒に生きていく術を探します。
 読後感が爽やかなのは、貴瑚の今を支える九州の人々の温かさがあるからでしょう。町田さんは、福岡県在住で、作家活動を続けています。馴染みのある地名が次々出てきて、近隣の山口県に住む私には心地良い作品となっています。
 5年後、10年後の貴瑚と少年を読んでみたいと思える作品でした。
 「52ヘルツのクジラたち」。一人一人の人間が紡ぎだすヘルツはそれぞれだと思います。特に、格差と貧困の中で、ケアの必要な人たちが紡ぎだすヘルツに耳を傾けていける社会になっているのか考えさせれる作品でした。
 第二第三の少年がきっと私の周りにも居るはずです。彼らのヘルツをキャッチできる第二第三の貴瑚が今の社会は必要なのだと感じました。
 町田そのこさんの作品はこれからも注目していきたいと思います。
 2021年本屋大賞第1位、町田そのこ著「52ヘルツのクジラたち」は一人でも多くの方に読んでいただきたい作品です。読まれた方は感想をお聞かせ下さい。

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