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映画「スパイの妻」

 ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞した、黒沢清監督の映画「スパイの妻」を観ました。
 宇部市での上映は、昨日までということで、ラストチャンスに恵まれました。
 映画のパンフレットのイントロダクションを引用します。
 「1940年、神戸で貿易会社を営む優作は、赴いた満州で偶然、恐ろしい国際機密を知り、正義のため、事の顛末を世に知らしめようとする。聡子は反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも夫を信じ、その身が破滅することも厭わず、ただ愛する夫とともに生きることを心に誓うのだった。すべての国民が同じ方向を向くことを強いられていた太平洋戦争開戦間近の日本。正義を貫くためには、誰かを陥れなければならない。正義、欺瞞、裏切り、信頼、嫉妬、幸福・・・。相反するものに揺れながら、抗えない時勢に夫婦の運命は飲まれていく・・・。昭和初期の日本を舞台に、愛と正義を賭けた、超一級のサスペンスが誕生した。」
 サスペンスだと分かっていても、時代背景を綿密に調査した上での脚本に、リアリティを感じながら引き込まれる作品でした。
 映画のパンフレットに黒沢監督のインタビューが掲載されていました。
 黒沢監督が本作にかける思いが伝わりました。紹介します。
 「古い時代に題材をとった作品を手掛けるのは初めてでしたが、社会の行く末が歴史的に既に決定してしまっている中で、当時の人間が未来に何を目指して葛藤していたのかを想像することは、たいへん興味深い作業でした。戦争とは何か?それを定義するのはた易くありません。世界の歴史の中には正義の戦争もあれば、侵略の戦争もあるでしょう。また、抵抗の為の戦争もメンツの為の戦争もあったでしょう。政治家や兵士たちは何も悪魔にとりつかれて暴力を遂行した訳ではないと思います。ただ民衆の側からひとつ言えることがあるとしたら、国家が些細なプライドや欲望を出発点にして知らぬ間に常軌を逸し、国民も次々とその狂気に感染していってとうとう全員が大殺戮を肯定する狂乱状態へと突き進んでしまうこと、それが最も身近な戦争なのではないでしょうか。1940年前後の日本がまさにそうした状況にありました。その中で何としても正気を保っていこうとする人間の姿を、僕はこの映画の夫婦を通して描こうとしました。聡子と優作にとって以前はごく普通であったことがだんだんと普通ではなくなり、ついにこの狂気の外側へと脱出するのか、それとも内に留まってこれに耐えるのかの選択を迫られる、そんな二人の葛藤が現代の人々にどれほど共感されるか、僕にはわかりません。しかし、表面的には自由と平和が保障されたかに見える現代社会でも、我々は明日にも狂気の沙汰へと転落していく危機と隣り合わせであるように思います。この映画から、その危機のリアリティを少しでも感じ取っていただければ幸いです。」
 主人公の聡子が、終戦前に病院に入院させられます。見舞に来た旧知の野崎医師に次のような主旨のセリフを聡子が吐きます。
 「私は、正気です。しかし、社会全体が狂気の中、一人正気の私は病気なのかも知れません。」
 このセリフは、この映画のテーマを凝縮したものだったのだということを、黒沢監督のインタビューを読んで感じました。
 同時に、黒沢監督の「現代社会でも、我々は明日にも狂気の沙汰へと転落していく危機と隣り合わせであるように思います。」という言葉を重く受け止めたいと思います。
 今日のしんぶん赤旗に、大分大学教授であり、社会政策学会代表幹事の石井まことさんが、「#学術会議介入に抗議します」というインタビュー記事で、次のように述べています。
 「戦前の言論弾圧事件、滝川事件にしても、その是非は別として『理由』は示されました。今回の『説明なき排除』がいかに特異なものであるかは明らかです。時の政府、権力による威嚇や脅し、『説明なき排除』が大学に広がり、若手研究者が学生の中に忖度や同調圧力がまん延していくのではないかと危惧します。自由に物を考える大切さを体現できない教育からは、萎縮した人材しか輩出できませんし、それはやがてこの国の文化、イノベーションに深刻な影響を及ぼすことになるかもしれません。」
 菅首相による学術会議への介入は、黒沢監督が指摘する「現代社会の狂気の沙汰」の現れの一つかも知れません。
 現代社会が「狂気の沙汰へ転落していく危機」から回避するカギは、石井教授が指摘する「自由に物を考える大切さ」なのかも知れません。
 黒沢清監督の映画「スパイの妻」は、危うい今だからこそ、多くの皆さんに観ていただきたい作品です。
 私は、蒼井優作品を連続して二作品観ました。「おらおらでひとりいぐも」で、1960年代を演じた蒼井さん。「スパイの妻」は、1940年代を演じた蒼井さん。どちらもどんぴしゃ嵌っていました。
 蒼井さんは、日本の30代を代表する俳優さんの一人だと実感しました。
 映画館に行くと、次に観たい作品が見つかります。
 私が次に観たいのは平川雄一郎監督の映画「約束のネバーランド」です。
 早速、原作のコミックを読み始めました。久々にコミックにも嵌っています。
 映画は、人生を豊かにしてくれ活力を与えてくれます。
 さあ、明日は、最終本会議。討論を行う役目です。
 議会は言論の府です。明日もしっかり発言してまいります。
 
 

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