4日、宇部市で上演された前進座公演を観ました。
ちひろ役の有田さんと善明役の新村さんと私
「ちひろ」を観ながら考えたことの第一は、ちひろが受けた戦中の傷についてです。
公演のパンフレットでいわさきちひろ・松本善明の子どもさんであり、美術評論家の松本猛さんが戦中のちひろをこう書いています。
「岩﨑家の三姉妹の長女だったちひろは家を継ぐために婿養子を取らねばならない立場にあった。親が決めた相手を好きになれず、抵抗するものの、ついに意に沿わない結婚をすることになる。しかし、この結婚は2年も持たずに、夫の自殺という悲劇で幕を閉じた。」
パンフレットで、女優の黒柳徹子さんは、ちひろが受けた傷をこう綴っています。
「私が一番驚いたのは、ご主人の松本善明さんも息子の猛さんも、ちひろさんが泣くのを一度も見たことがない、と、いったことです。例えば、テレビドラマでもドキュメンタリーでも、みんなが涙するところで、一度も泣かなかったというのです。私は、何度もそのことを考えてみました。(ちひろさんのように繊細なかたが、泣かないはずがない。)多分ちひろさんは、一生分の涙を、どこかで流していたのでしょう。前の旦那さまのことでも、戦争中にお母さまのした事でも、学生旅行でも、そのとき気がつかなかった。なんて自分は考えの足りない人間だったんだろう。きっと、ちひろさんは、自分を責めてどこかで泣いて、そして、子どもを可愛く可愛く描いていらしたのだと思います。」
ここで、戦争中にお母さまがした事は、「ちひろさんのお母様は女学校の先生で、戦争中、軍部の命令で、満州に開拓などに行った若者に、お嫁さんを送る仕事をしていました。」と黒柳さんがこの文の前段で書いています。
また、学生旅行とは、ちひろが結婚する前の学生時代に満州を旅行したことです。
この公演の演出を務めた鵜山仁さんは、ちひろの絵の背景について、飯沢匡さんの言葉を次のように引用しています。
「あの清らかな絵の背景には、戦前、国策とはいえ満州への開拓民移住の片棒を担いだ岩﨑家の贖罪があると、飯沢匡さんも指摘されています。ともすれば現実と妥協し、理想を裏切りがちなわれわれ大人の罪を糾弾し、しかしどこかで過ちを許し、再生への励ましとなってくれているような子どもたち。彼らと、その背景の複雑な色合い、涙で滲んだような深い闇とのコントラストは、この世界を更新するためのエネルギーをたたえている。こんな子どもたちに背中を押されて励まされながら、われわれは生きているのかもしれません。」
「大人の罪を糾弾し、しかしどこかで過ちを許し、再生への励ましとなってくれているような子どもたち。」
ちひろの絵の子どもたちは、ちひろ自身の再生への願いが込められいたのですね。深い洞察です。
ちひろの絵の背景がしっかり理解できました。
もう一つ、この公演を観ながら感じたのは、「ちひろ」の今日的意義についてです。
パンフレットの冒頭の「ごいあさつ」の中で、前進座は、こう書いています。
「あの戦争で、この国がどんなことをして、それはどのように私たちに伝えられてきたのか・・・。今、そのように『世の中』は伝えようとしているのか・・・・。隣国や自国の離島を、いつまで、差別する感覚でい続けるのか・・・。ちひろの願った未来からだんだん離れていってしまってはいないか・・・。今日は、このお芝居をご覧になった皆さまと、ちひろの『願い』で繋がり、その輪が広がることを祈って、本日の舞台をお贈りいたします。」
私には、ちひろの『願い』がこの演劇からしっかり繋がりました。
演出の鵜山さんはパンフレットにこう書いています。
「いつのころからか、世界は雪崩をうって効率へ、数字へ、そして自国中心主義へと傾斜しつつあります。それを後押ししているのは、やはりわれわれ一人一人の心の中にある自己中心主義に違いない。再演にあたって、いわさきちひろの真率さと改めて向き合うことで、今われわれが『ちひろ』を必要としている、核心の部分に踏み込んで行きたいと、そんなことを、改めて考えています。」
公演の中で、宮沢賢治の「世界全体が幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」が出てきました。
「いわさきちひろの真率さ」とは、自国とか自己の幸福を超えた「世界全体の幸福」への願いだと思いました。
私自身も真率な議員として、一人の人間として生きていきたいと思いました。
前進座の皆さん、公演を成功させた実行委員会の皆さん、素晴らしい公演をありがとうございました。
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