9月28日、朝日新聞は、映画「黒川の女たち」について次のように報じました。
「終戦直後の旧満州(中国東北部)で、生きて日本に帰るため、女性たちをソ連兵に差し出した開拓団があったー。当事者の女性たちを追うドキュメンタリー映画『黒川の女たち』の上映が、23日から山口市で、27日から山口県萩市で始まる。28日には山口市で松原文枝監督のトークイベントも予定されている。旧満州には、日本の国策で数多くの開拓団が移住していた。終戦直前、ソ連軍の侵攻を受けると、日本の関東軍は敗走。開拓団の人たちは逃げ惑い、集団自決をした人たちもいた。岐阜県から黒川開拓団は、ソ連兵に保護を求めた。見返りは女性たちによる性接待。数えで18歳以上の未婚女性らが差し出された。帰国後、女性たちを待っていたのは、ねぎらいではなく差別や偏見、誹謗中傷。女性たちは身を潜め、事実は伏せられてきた。しかし、長い時を経て女性たちが公の場で明かし、世代を超えた連帯が生まれる・・・。そんな作品を監督した松原さんはテレビ朝日社員、政治部記者や『報道ステーション』担当などを経て現在はビジネス開発担当部長。『独ワイマール憲法の教訓』でギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞し、映画『ハマのドン』も手がけた。松原さんは、『戦後80年、女性たちの強い意志に突き動かされました。戦争の実相と尊厳の回復を描いています。史実に向き合い過去の責任を引き受けることは、未来を切り開く。そんな希望の物語です』と話す。山口市での上映は23日から10月6日まで、山口情報芸術センター(YCAM)。萩市では9月27日から萩ツインシネマで上映される(終了時期は未定)。松原さんのトークイベントは28日午後2時10分からYCAMで。問い合わせはYCA[(083・902・2222)、萩ツインシネマ(0838・21・5510)。」
私は、先週、山口情報芸術センターで、松原文枝監督の映画「黒川の女たち」を見ました。
高麗博物館朝鮮女性史研究会編著「朝鮮料理店・産業『慰安所』と朝鮮の女性たち」の冒頭に、東京外国語大学教員の金富子さんの「植民地遊郭と朝鮮の女性たち 日本の近代公娼制の朝鮮移植と日本への還流」に次のようなくだりがあります。
「男性の性的欲望を自然視して肯定する『男性神話』を疑わない限り、遊女屋、貸座敷、慰安所などで『男性に女性をあてがう』という発想やシステムが当然視されてしまうのだ」
「『性売買』がジェンダー不平等な法や社会構造から生まれたなら、それらを変えることであり方も変わりうるのだ」
「黒川の女たち」は、慰安婦にさせられた訳ではないけれど、ジェンダー不平等な社会構造の中での犠牲者だと思います。「男性神話」を絶対化した社会構造の中での犠牲者だと思います。
この映画は、「満蒙開拓団」という国策の失敗も描かれています。
映画のパンフレットに、満蒙開拓団とは「ソ連防衛の兵站の前線として送り込まれた」とあります。
映画で描かれていますが、当時のロシア外務省は、日本から満州に渡った、地域・世帯数・人口を事細かく把握していたのです。
黒川集落についても、ロシア外務省は詳細を把握していました。
1945年8月9日、ソ連軍が国境を越えて満州に侵攻して、直ぐに、関東軍は、南に撤退したこともこの映画は描いています。
満蒙開拓団は、ソ連防衛の兵站としての役割を担わされ、更に、関東軍は、満蒙開拓団を守ろうとしなかったのなら、二重の国策によって、黒川の悲劇は起こるべくして起こった事件と言わなければなりません。
このような背景がありながら、戦後の彼女らが差別された状況は、「セカンドレイプ」と言えるものだと思います。
「黒川の女たち」の事実が私たちに伝えれたのは、ただただ、当事者の勇気ある告発があったことによります。
「あったことがなかったことになってはならない」の気持ちで、社会に告発した、彼女たちの勇気に敬意を表したいと思います。
映画のパンフレットに安田奈津紀さんの「映画が描いているのは『過去』なのか」という記事が掲載されています。過激派組織「イスラム国」との戦闘が激化している「クルド自治区」で性暴力の犠牲になった女性との出会いを安田さんは綴っています。
「黒川の女たち」を「過去」の出来事にできない、戦争=暴力が続く世界の中で、同様の問題が起こっていることを考える映画でもありました。
私は、映画を観終わった直後、書店で、松原文枝著「刻印 黒川開拓団の女性たち」を注文しました。今度は、松原さんの著作から黒川開拓団の女性たちの物語を学びたいと思います。
一人でも多くの皆さんに映画「黒川の女たち」を観て頂きたいと思います。
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