11月10日付、しんぶん赤旗日曜版に、詩人で韓国文学研究者の佐川亜紀さんが、アジア女性初のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンさんについて次のように書いています。
「今年のノーベル文学賞受賞者は、53歳の韓国女性作家、ハン・ガン(韓江)に決まった。韓国の文学者の受賞は初めて、しかもアジア女性としても初の受賞で、まだ若く、世界中に驚きが駆け回った。すでに国際的な賞もウケ、次々に注目すべき力作を発表しているから決定は当然ではあるが、新鮮な風が吹いたと感じた。受賞理由には、『敵視的トラウマを美しく力強い詩的な実験的表現で描いたこと』が挙げられている。歴史的な傷痕のひとつは、1980年5月に韓国で起こった民主化運動を軍部が弾圧し、多数の市民の死傷者が出た『光州っ事件』だ。それをわが身に引き受けるように書いた小説が『少年が来る』(井出俊作訳、クオン)である。ハン・ガンは光州市生まれだが、引っ越し、事件を体験しなかったことを痛みとしてかかえていた。軍人によって、いきなり殴られ、銃剣で刺され、銃撃された少年少女、市民たち。拷問され、性暴行を被り、事件後も誠実な人間性ゆえに苦しんだ人々。『多分、その魂も話し掛け方を知らないのに、ただ僕たちがお互いのことを力の限り思っているってことだけは感じられたんだ』などの言葉に死者への繊細で豊かな想像力が感じられる。死者を生き返らせようとする文学ならではの力を思う。膨大な資料を悪夢に襲われるほど読み、個人の感受性と肉体と人生から入ってよみがえらせた。私も2017年の第1回アジア文学祭に参加した時、光州の国立5・18民主墓地に行き、おびただしい墓と少年少女らの遺影に胸が痛んだ。光州事件は、戒厳令下で行われ、長く韓国国民自体にも詳細を知らされなかった。本年9月には『日韓対訳 韓国・光州事件の抵抗詩』(文炳蘭・李榮鎮編、金正勲・佐川亜紀訳、彩流社)が日韓で出版され、最初に事件を世界に知らせた詩にも再び照明が当てられている。さらに、韓国の有名な李箱文学賞を受け、2016年にイギリスのマン・ブッカー国際賞を受賞した『採食主義者』(きむふな役、クオン)は、女性の傷と苦悩が鮮やかなイメージ心に焼き付く。『平凡な妻』と結婚したと思っていた夫は、突然、妻が肉食を激しく拒否し始めたことにとまどい、苛立つ。家父長的な義父は『ベトナム戦争に参戦し、武功勲章を受章したことを最も誇り』に思い、自慢話として繰り返す。そうした暴力的な強者の価値観に耐えられず妻は精神を病んでゆく。ついには、自ら樹木に変貌したいという願うかのように逆立ちをする。『ヨンへの体から執拗な幹が生えて、白い根が手から伸びて、黒い土を握りしめただろうか』。逆立ちは、人間中心の現代文明を逆転したいという意味かもしれない。フランスのメディシス賞などを受けた『別れのを告げない』(斉藤真理子訳 白水社)は実験的な手法で、1948年に起きた済州島民虐殺4・3事件の記憶をたどる。虐殺を生き延びながら、精神的痛みを持ち続けた母と介護した娘、および友人である作家の心理をきめこまやかに掘り下げている。言葉を話す鳥や雪を象徴的に用いて、むごい歴史を完成で伝える。『見えない雪片が私たちの間に浮かんでいるようだ』。過酷な記録を引き継ぐことで、未来に生きる力へつなごうとする。『世界でいちばん小さな鳥が羽ばたきするように』。『あとがき』によると作者は、『究極の愛についての小説であることを願う』と記している。『別れを告げない』とは、歴史の死者たちに別れを告げない、忘れはしない、死者たちへの愛を守る静かな決意であろう。済州島事件は、長年、韓国でも光州事件と同様に隠され続けた歴史だった。在日朝鮮人作家の金石範が長編小説『火山島』に記し、在日朝鮮人詩人・金時鐘が長編詩『新潟』に表した。今回の受賞を機に在日朝鮮人文学者の仕事も見直されてほしい。韓国女性文学の多彩な発展ぶりは驚嘆すべきであり、ハン・ガンは牽引車である。ハン・ガンのますますの飛躍と充実が期待され、受賞を心からお祝いしたい。」
先日、大学のゼミの同窓会で愛知県を訪ねた際、名古屋駅の近くの書店で、ハン・ガンさんの「別れを告げない」を購入して、帰りの新幹線の乗車中から読み始めました。
翻訳者の斎藤真理子さんの「訳者あとがき」で、ハン・ガンさんのインタビューを次のように書いています。
「インタビューで作家が『人類が長い歴史の中でずっとくり返してきたジェノサイド』に言及し、『この「ような人間の本性について問いかけることをやめずにいたい』と吐露していたことも忘れがたい。このあとがきを記している今もガザへの攻撃は止まらないが、『書きながら、死から生へ、闇から光へと自分自身が向かっていることを発見した。光がなければ光を作り出してでも進んでいくのが、書くという行為だと思う』というハン・ガンの言葉を書きとめておきたい。」
ハン・ガンさんは、「別れを告げない」の中で、済州島島民虐殺事件で3万人が殺害されたとした上で、「台湾でも3万人、沖縄では12万人が殺害されたそうです。」と書いています。
ハン・ガンさんは、済州島で殺害された人々だけでなく、アジアで殺害された人々にも目を向けているのです。
私は、長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会の運営委員として、水の中に埋められたままになっている遺骨を遺族に戻す運動に参加しています。
これも、歴史の死者たちに別れを告げない運動なのだと、佐川さんの解説を読んで再認識しました。
ハン・ガンさんの「別れを告げない」姿勢に共感しながら、この本を読んでいます。
ハン・ガンさんの文章から、殺された人たちの痛みを共感しようとする気持ちがあふれ出していることに気づきます。
あまり、海外の作家の文章に共感できなかった私ですが、ハン・ガンさんの文章や生き方に共感している私が居ます。
早速、宇部市内の書店で、光州事件を扱った「少年が来る」を注文しました。
引き続き、ハン・ガン著「別れを告げない」を読み進めていこうと思います。
ハン・ガンさんのファンの皆さん、おすすめの作品をお教えください。
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