石井裕也監督の映画「月」を観ました。
大学で、障害者福祉を学び、障害者福祉をライフワークにする私にとって、深く深く記憶に残る映画となる作品でした。
この映画は、実際の障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さんによる小説「月」を映画化したものです。
この映画のプロデューサーは、スターサンズの河村光庸さんです。
河村さんがプロデュースした映画は「新聞記者」「i-新聞記者ドキュメント」「パンケーキを毒見する」「妖怪の孫」を観ました。どの作品も社会問題を堂々と問う映画でした。
河村さんは、この映画の企画当初に次のように語ったとパンレットに掲載されています。
「日本では、戦後の隔離収容政策のもとで、障害者を都市部から離れた地方に隔離をしたといわれている。その構造は、もしかしたら内在的に人々に差別意識を植え付け、問題に蓋をさせてきたのではないか。しかし、その蓋は、あってはいけない恐ろしい事件によって、開けられることになる。決して許してはいけない事件である。ただ、果たして、その『現実』を目の当たりにしたこの社会において、問題の本質はしっかりと語られてきたのだろうか。障害者施設での殺傷事件は、無差別殺人ではなく選別殺人だった。個人が起こした事件の背景には、社会の構造があるのではないか、と考える」
この映画は、2022年8月から撮影が始まる予定でしたが、クランクインの2か月前に、河村さんが急逝されます。
エンドロールに河村光庸さんの名前が刻まれていましたが、この映画が、プロデューサー河村光庸氏の遺作となりました。残念ですが、とても深いテーマが勇気を持って描かれていました。
主役の洋子役の宮沢りえさんの演技が本作をリアルにするために重要なものでした。
宮沢さんはこの作品に出演するきっかけをパンフレットでこう述べています。
「ちょうど49歳になったとき、これから役者としてどういう道を歩んで行くのだろうと、少し迷いがありました。自分が演じてみたい役、出てみたい作品を具体的にイメージしていくと、もう役を持っているだけではダメだなと、自分から会いに行こうと思い立ったとき、スターサンズの河村光庸さんを思い浮かべました。河村さんは社会に対して強いメッセージを持ち、深く記憶に刻まれる作品を創り続けてらして、私も好きな作品がいくつもありました。それである朝、自分の中に湧いたこの気持ちを事務所のみなさんと共有しようとメールをしたその日の午後、河村さんから連絡がきたんです。それは自分の中で衝撃的だったし、大袈裟に言うと、ちょっと運命みたいなものを感じました。」
石井裕也監督作品は「舟を編む」「バンクーバーの朝日」などの作品を観ていますが、社会問題を深く描いた本作のような作品ははじめてです。
原作の辺見庸さんの文庫本の「月」の解説を石井監督が書いておられます。
石井監督は、辺見庸さんの作品に18歳で出会い、「この世界で最も信頼できる言葉を持った人だと思っている」と語り、辺見作品はすべて読破していると述べています。
映画「月」は、プロデューサーの河村光庸さんと作家の辺見庸さんと、映画監督の石井裕也さんという三人の力と信頼が結実した作品だと痛感しました。
石井裕也監督の映画「月」を一人でも多くの皆さんに劇場でご覧いだたきといと思います。
宇部市のシネマスクエア7で、当分の間上映されています。
「パーフェクトデイ」につづき、今年は、良作に恵まれる映画鑑賞の年です。
今年も多くの映画に接することになるでしょう。皆さんがご覧になった作品の感想をお聞かせください。
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