7月22日、岡山市で行われた自治体学校で、記念講演を行った岸本聡子杉並区長の講演要旨が、7月31日付のしんぶん赤旗日刊紙に掲載されました。
「4月の杉並区議選当選者は定数48のうち女性が24人でした。投票率も前回比4・19㌽増の43・66%で、新たに有権者2万人が投票したことに相当します。新人が15人当選し、新聞にも『議会激変』と書かれました。私は区長として政策合意書をつくり、同じ方向の候補者19人を応援しました。シングル女性や環境活動家のカフェ店主や本当に普通の生活者が立候補しました。その候補者が集まり『共同街宣』を開きました。街頭宣伝は、立ち止まりにくく宣伝する側も結構孤独で、有権者と候補者を離してしまう力があると思います。共同街宣はたくさん人もいて顔ぶれも多彩、もう楽しい。潜在的に世の中を変えたいと思う若者層がたくさんいるのは確かだと思います。特に女性は生きづらい。非正規雇用でキャリアを築けず安心感のない雇用情勢の中ですし、それが政治と直結しています。政治の一番の足元は私たちが生きている地域です。自分に似たような魅力的な候補者がいれば選挙に行くことにつながり、地方選挙を盛り上げ、変革のステップにもなります。世界で、水道や電気など住民生活に不可欠なインフラを民営化する流れが続いてきました。公共財が営利の論理で支配され、生活を圧迫する問題が相次いでいます。欧州で広がっているミュニシパリズムでは、政治参加を選挙による間接民主主義に限定せず、地域に根づいた自治的な民主主義や合意形成を重視します。それは、国家主義・権威主義をかざす政府によって人権・公共財・民主主義が脅かされる今日、地域住民が直接参加して合理的な未来を検討する実践によって、自由や市民的権利を公共空間で拡大する運動です。杉並で取り組もうとしているのは、公共の役割と力を取り戻すこと。地域住民が主体となって税金の使い方や公共財の役立て方を民主的な方法で決めていくことです。これが世界の潮流です。『気候変動問題を地方自治体が取り組んでもしょうがない。ほかにお金を使え』との論理がありますが、まったく逆だと思います。学校、個人宅や公共施設で断熱が進んでいません。断熱で光熱費が40%節約できるともいわれます。化石燃料高騰で低所得者がインパクトを受けています。地域・自治体あげて断熱を真剣にやれば、どれだけの経済効果があり、命を救え、光熱費やCO2(二酸化炭素)の排出も減らせるのでしょうか。新自由主義、さらには維新的な『身を切る改革』にノーを示さなければと思います。ここは正念場。杉並で投票率が上がり革新的な勢力が議席を増やす一方、維新のような勢力も何人もいます。今の保守政権よりも右寄りな維新の『改革』にノーを示したい。一つの提案として、ケア社会を中心とする脱カーボン(炭素)社会の具体的な地域経済ビジョンを示し、安定した雇用があることをしっかり伝えたい。」
私が、岡山市で開催された自治体学校に参加し、岸本聡子杉並区長の講演を聴いたことは本ブログで紹介しました。
私は、岸本区長の講演に、「地方自治の未来」や「政治の希望」を感じ、岸本聡子著「地域主義という希望」を購入して今読んでいます。
岸本さんは、ヨーロッパで勤めていたトランスナショナル研究所で、公共インフラの再公営化に関する事例を調査し報告書にまとめることなどを行ってきました。
岸本さんは、本書の中で、区長に立候補を決断した理由を次のように書いています。
「世界中で推進されてきた新自由主義が、どれほど地域のコミュニティや文化を蝕み、人々を貧困と絶望に追い込んできたか。とりわけ欧州では、2008年の世界金融危機以降、欧州連合(EU)のトップダウンで緊縮政策が各国に強いられ、公共サービスは縮小し、住宅、交通や電力といった貴重な公共財とインフラが民間資本に売り払われていきました。それによって広がった格差・貧困と、EUのエリート政治に対する反感は、フランスやギリシャ、スペインなどで激しい抵抗運動を生む一方、難民や移民を敵視する極右・排外主義的な勢力が成長する温床も生んでいます。移民に対する差別感情は、アジア系である私にとっても他人事ではありません。このような負のスパイラルに歯止めをかけ、人々の生活や環境が持続可能で、誰もが抑圧されず自由に生きていける社会をつくりたい。その信念は20代からずっと変わっていません。区長という職務を通じてそれを実効することになっても、基本的なスタンスや目標は同じです。」
岸本さんは、本書で、日本の自治体での新自由主義の現れについて次のように書いています。
「近年の行政改革と新自由主義の流れのもとで、受益者負担原則や指定管理者制度など、効率や市町の論理で行われるようになりました。過去数十年かけて、住民による自治的な関与の回路はどんどん壊されてしまったのです。同時に、行政の職員もどんどん非正規化されてきました。いまや、会計年度任用職員という名の非正規職員が全体の4割をも占めるようになっています。杉並区も例外ではありません。その仕事は必ずしも補助的業務ではなく、むしろ彼ら彼女らがいなければ仕事が回らないという状態が、どこの自治体でも状態化しています。このような状態で、住民の声に丁寧に耳を傾けるのは困難ですし、業務の専門性も継承されず、住民へのサービスの質は低下していきます。公務員バッシングを通じて自治体が正規職員を減らし、業務も過重労働化していった結果、労働条件の劣化と住民サービスの低下というツケが回ってきました。職員の労働条件の改善は一朝一夕にできるものではありませんが、職員の働きやすさが住民にとっても住みよさにつががっているということは、住民にも理解を得ていきたいと思います。」
岸本さんは、めざす自治体像について次のように書いています。
「困っている人や傷ついている人、声をあげられない人たちがかかわっていけるのが本来の政治だと私は思っています。こうした政治の原理とスタイルを取り戻し、提示していきたい。それは多くの住民、市民のみなさんと一緒でなければ実現しないでしょう。」
新自由主義の深化の中で、住民に犠牲を強いる政治が地方で横行しています。
その流れに「恐れぬ自治体」=杉並区を目指し、地域主義という希望を示す岸本区長の今後に大注目していきたいと思います。
これからも岸本さんの著作からもしっかり学んでいきたいと思います。
岸本杉並区政に対する皆さんのご意見をお聞かせください。
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