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映画「KCIA 南山の部長たち」

 ワイカムシネマでウ・ミンホ監督の映画「KCIA 南山の男」を観ました。
 映画のパンフレットからストーリーを引用します。
 「1979年10月26日、大韓民国大統領直属の諜報機関である中央情報部(通称:KCIA)部長キム・ギュピョンが大統領を射殺した。大統領に次ぐ強大な権力と情報を握っていたとも言われるKCIAのトップがなぜ?さかのぼること40日前、KCIA元部長パク・ヨンガクが亡命先であるアメリカの下院議会聴聞会で韓国大統領の腐敗を告発する証言を行った。更には回顧録を執筆中だという。激怒した大統領に事態の収拾を命じられたキム部長は、アメリカに渡り、かつての友人でもある裏切り者ヨンガクに接触する。やがて自らの運命をも狂わせる哀しき暗闘の幕開けとも知らず・・・。」
 映画のパンフレットにある秋月望明治学院大学名誉教授の「『ナムサン』の今昔」は、この事件の背景を知る上で極めて参考になるコラムです。
 秋月名誉教授は、KCIAのあったソウル市南山庁舎の歴史を遡り、こう解説しています。
 「この南山庁舎のあった場所は、1905年に日本が統監府を置き、1910年の韓国併合以降は朝鮮総監府や総監官邸が置かれていた場所である。日本による植民地支配の総本山で『倭城台』と呼ばれていた。その奥まった場所に、1962年に中央情報部南山庁舎が建てられ、本館の周辺に別館の取調室などが数棟配されていた。(中略)1945年、日本により植民地支配が終わっても、抑圧のための場所は抑圧する機関に引き継がれたのである。1917年生まれの朴正熙も、1926年生まれの金載圭も、青春時代を日本の統治下で過ごした。1970年代には、好むと好まざるとにかかわらず、まだ日本の植民地支配の呪縛から逃れることができなかった。『あの頃はよかった』。やや唐突な日本語のこのセリフは、いろいろな意味で韓国近現代史の重苦しさと複雑な対日感情の交錯を感じさせるものである。」
 解説文にあるように映画の中で、朴大統領と金部長が「あの頃はよかった。」と日本語のセリフを発して酒を酌み交わすシーンがあります。
 戦中、日本の植民地支配に協力し、戦後、韓国人民の抑圧の最前線に立っている二人を象徴する場面であったことを解説で知りました。
 ウ監督は、映画のパンフレットで「なぜ彼が大統領を暗殺したのか?全てはご覧になった皆さんがそれぞれに判断をしていただければと思っています。」と述べています。
 私は、彼は、自分のというだけではなく、韓国のためにという思いもあり、大統領を暗殺したのだと思います。
 しかし、暗殺という方法だったが故に、全斗煥独裁体制を生む結果になったのではないかと思います。血で血を洗う方法の誤りをこの映画で私は感じました。
 軍事独裁政権といえば、ミャンマー国軍による人民への弾圧の問題が今日的に起こっています。これまでに700人以上の市民が犠牲になっていると言われています。
 私は、広島県三次市の小武正教西善寺住職などが開催されている「ミャンマー(ビルマ)市民の訴えを聞く会」の取り組みにリモートで参加しています。
 これまでに、2度、現地も含めてミャンマーの市民の訴えを聞いてきました。
 4月19日の中国新聞の「洗心」の欄に、この取り組みが紹介され、小武住職のインタビューが掲載されました。
 小武住職は、こう述べています。
 「仏教には『利他』という教えがあります。何事も自分だけで独占してはいけない、他者とともに分け合って生きる。そうすれば争いはなくなると説いています。ミャンマーは敬虔な仏教国で、まさに他者を思いやる穏やかな国民性に触れました。なのにこんなことが起きている。悔しくて憤りに震えます。人間はこれほどまでに残虐な面を持っているのかー。だからこそ仏さまの教えが必要ということなのでしょうか。」

 暗殺された朴独裁体制にもミャンマー国軍にも「利他」の精神の喪失があると感じられます。

 日本の政治にも「利他」の精神の喪失を感じます。
 ミャンマーで起きている軍部が人民を虐殺する事態を収めていく方法を考えるためにも映画「KCIA 南山の部長たち」は教訓的な作品だと思います。
 この映画は、2020年の韓国年間興行収入ランキング1位となる大ヒット作品となりました。
 自国の歴史にストレートに向き合う映画を作成するということは、自国の民主主義の発展のために意義あるものだと思います。
 日本においても、近現代史を扱う骨太の映画が制作されることを願っています。
 ワイカムシネマで「KCIA 南山の部長たち」は連休中も上映されています。この作品を一人でも多くの方に観ていただきたいと思います。

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