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男はつらいよシリーズ

 男はつらいよシリーズをネットフリックスで観ています。
 これまでに、第一作の「男はつらいよ」。第二作の「続 男はつらいよ」。第三作の「男はつらいよ フーテンの寅」。第四作の「新 男はつらいよ」を観ました。
 最近、NHKで少年期・青年期の寅次郎の物語がドラマで放映されていましたが、それと重ね合わせると初期の「男はつらいよ」シリーズは繋がっていることが分かります。
 寅次郎が産みの母に逢う場面や散歩先生との再会などがそれです。
 「男はつらいよ」の第一作が1969年作成ですので、1964年生まれの私は、半生を「男はつらいよ」と共に生きてきたことを実感します。
 私の本棚に山田洋次監督著「映画館(こや)がはねて」というエッセイ集があります。1984年に発行された本です。私が、学生の頃に購入した本だと思います。
 山田洋次監督は、幼年期を満州で過ごし、少年期に宇部市で暮らしていたことを皆さんもご存じだと思います。
 この本の中に宇部市での少年期の思い出を書いた「金さんのこと」があります。
 「私の住んでいた家の近くの海岸に湿地帯があって、ここを埋め立てる仕事を夏休みにした。今と違ってブルドーザーのようなものは使わない。小さな国鉄の駅の引き込み線に、石炭ガラを満載にした無蓋貨車が並び、そのガラをトロッコに移して、手で押して行って水の上にひっくり返して落とすのである。工場で焼いたコークスのガラだから、まだ熱いこともある。スコップでトロッコに移すと粉がもうもうと立ちこめ、汗だらけの身体は真黒になってしまう。中学3年の、栄養失調気味の少年にはかなりの重労働だった。一日の仕事が終わると、現場に建っているバラックの事務所に金を貰いに行く。すると金さんという朝鮮人の親方が金を渡してくれたあとで『ヤマダ、ゴクロウサン、コレ呑メ』と、大きな丼になみなみとドブロクが入ったヤツを差し出すのである。私はアルコールに弱い、しかしせっかくの好意を断るわけにはいかない。だから我慢して、顔をしかめて呑む。すると、その姿が余程おかしいのか、金さんや、その周りに坐っている仲間たちがどっと笑うのである。でも、私は彼等に笑われることは決して嫌ではなかった。むしろ、あらくれ男たちの笑い声のなかに、不思議な暖かみを感じて幸福な気持ちすらした。彼等に比べて私は体が貧弱で、仕事の量も少ない、しかし彼等はそのことを決して責めたりはしなかった。むしろなにかにつけ、私をかばってくれたし、吸えない煙草をくれたりもした。日本人の請負師の中にはずいぶん悪いやつもいて、約束の半分の金しかよこさず、文句をいうと入れ墨をちらつかせておどかすこともしたものだが、金さんとその仲間たちは決してそんなことはしなかった。『ヤマダ、ヤマダ』と、私を仲間のように、弟分のように扱ってくれたこの人たちのことを、私は今でもまざまざと憶えている。」
 寅さんの世界の原風景は、山田監督の宇部市でのこのような経験があるのだと感じました。
 山田監督は、寅さんの世界をこのように書いています。
 「私たちにとっての寅は、無知な愚かな者であるより、自由を愛し、他人の幸福をもって自らの幸福と考え、財産、金銭には全く無欲な、神の心をもった存在に変わりつつあった。また寅の故郷である葛飾柴又の『とらや』は私たちにとっても永遠の心にふるさとになりつつあったのである。」
 山田監督は、こうも書いています。
 「寅さんはいつも他人と仲良くなりたい、少しでも多くの人間と友人になりたい、と願っている。こういう人物は今日の競争社会では落ちこぼれ以外の何物でもないだろう。人間と人間が競争する、ということは、スポーツやゲームの上でなら罪がないのだが、それが生存の原理まで持ち込まれている、というのはなんとむごい世の中か、と思う。せめて、映画館に入る時ぐらい、このむごい世の定めを忘れたい、と観客は願うだろう。そんな思いにこたえる映画を作るためには、スタッフは皆仲良くなけれならない。」
 山田監督は、「まえがき」でこう書いています。
 「映画館(こや)がはねて、星空を仰ぎながら家路につく観客の胸が幸福な気分でつつまれ、さっき観た一場面を思い返して、おもわず一人笑いしてしまうような作品ができることを念じつつ『男はつらいよ』33作目をいま作っている。」
 最近の映画は、生存の原理をリアルに描く作品が多いように思います。
 「さっき観た場面を思い返して、おもわず一人笑いをしてしまうような作品」が少なくなっているような気がします。
 今の時代にこそ、「男はつらいよ」シリーズのような作品が必要なのでないでしょうか。
 これからも、時間のころ合いをみながら、「男はつらいよ」シリーズを観ながら「幸福な気分」に包まれたいと思います。
 「男はつらいよ」シリーズに対する皆さんのご感想をお聞かせ下さい。

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