12日、13日の東京出張の途中、有楽町の三省堂書店により、平積みしてある文庫本の中から偶然手にしたのが、丸山正樹さんの「漂う子」でした。14日の大分出張の移動中の電車の中で読了し、今、丸山正樹著「デフ・ヴィオイス 法廷の手話通訳士」を読んでいます。
有楽町の三省堂は、東京出張の際、昔からよく立ち寄る書店の一つです。
確か、西加奈子著「サラバ!」のサイン本もこの書店で購入した記憶があります。
私にとって三省堂書店有楽町店は、新しい本に出合う場所になっています。
さて、丸山さんの本の特徴は、フィクションなのに、ノンフィクションのように社会問題を鋭く描きだしている点だと思います。
それでいて、問題を見守る目の温かさを感じます。
「漂う子」は、表題の通り「居所不明児童」の問題を扱った作品です。
本の裏表紙を引用しましょう。
「恋人の教え子・沙智が父親と共に突然姿を消した。彼女を探すことになった二村直は、ただ一つの手掛かりをもとに名古屋へ向かう。所在が分からない子供、『居所不明児童』という社会の闇を知るうちに、直は重大な決断を迫られる—。」
2016年に出版されたこの本に、「住民登録抹消の子 940人」「集計の結果、『消えた子どもたち』は、この10年間の間に施設に保護されただけでも、少なくとも1039人いたことが明らかになった。」「文部科学省が把握した無戸籍児童は、小学生相当年齢116人、中学生相当年齢26人の計142人」「全国に1500人近くの居所不明児童がいる」「そのうちの半数は、いなくなった原因も分かっていないんだって。もちろん、今もみつかっていない。原因も分からずに、700人以上子どもがいなくなっているのよ。」
この本の最後に、参考文献が多数紹介されています。この作品はフィクションですが、これら数字は、当時、何等か報道された数字だと思います。その当時から5年経過した今日。「居所不明児童」は増加しているのではないかと私は推察します。
直が、恋人の教え子を探すために名古屋に向かい、児童相談所や子どもの人権救済を行う団体などが描かれています。
その一つに「情緒障害児短期治療施設」があります。
小説では、子どもの人権救済を行う団体の中心である夫婦が出会った場所として描かれています。
子どもを取り巻く問題が深刻化する中で、「情緒障害児短期治療施設」の存在が大きな役割を果たしていることを学びました。
私は、近く、県内にある同様の施設を見学する予定にしています。
この本を読んで、社会の貧困が子どもの貧困に結びつき、様々な問題を派生させていることを学びました。
それに立ち向かう行政の対応をもう少し太くしていかなければならないことを痛感しました。
この小説のもう一つのテーマは、「子を持つとは、親になるとはどういうことか。」ということです。
直は、恋人に子どもが宿ったことを知らされるなかで、名古屋で、「居所不明児童」を探します。
子どもの人権擁護団体の中心である河原が、虐待する親の心境ついて直にこう話します。
「子供なんて自分の所有物だと思っているからです。自分がつくって、自分が育てている。だから好きにしていいんだってね。まるで神様のような気分なんでしょう。」
ストリートチルドレンとして育ち、今は、人権擁護団体に協力している「シバリ」という少年が、こんな言葉をはきます。
「血はもうとっくに入れ替わった。今の俺は、細胞から全部俺のもんだ。」
この小説を通じて、子どもの人格や人権を尊重することの大切さを学びました。
そのことを理解することが親になるということなのかも知れません。
このように考えると私自身まだまた親になりきれていない自分を感じます。
親の想いを子どもに押し付けようとする自分が時々顔を出します。
親子が、人格をもった人間同士として話し合いをしていくことが必要なのでしょう。
さて、子どもはいらない、親にはなれないと思っていた直が、どのように選択をしたのか。
恋人の教え子が見つかったのか。
この二つは、皆さんがこの本を手に取っていただいて、確かめていただきたいと思います。
今年の後半に素晴らしい作家=丸山正樹さんに出会えました。
年内に、丸山さんが出版されている「デフ・ヴィオイス」シリーズを読破したいと思っています。
丸山正樹ファンの皆さん、好きな作品や感想をお聞かせ下さい。
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