先日のしんぶん赤旗日曜版で紹介されていた東京工業大学教授・中島岳志さんの「保守と立憲」という本を読んでいます。
中島さんは、保守について「多くの庶民によって蓄積されてきた良識や経験知であり、歴史の風雪に耐えてきた伝統」を重んじ「人間の能力に対する過信をいさめ、過去の人間によって蓄積されてきた暗黙知に対する畏怖の念がある」などと書いています。
その上で、中島さんは、現在の安倍内閣について「安倍首相は国会での議論に消極的で、野党からの質問に正面から答えようとしません。また、少数派の意見に真摯に耳を傾けようとはせず、多数の理論によって法案を推し進めようとします。その結果、強行採決が繰り返され、野党が臨時国会の召集を要求しても応じません。自民党内でも闊達な議論は起こらず、上位下達の決定ばかりが目立ちます。」と述べ、「安倍政治を『保守』と見なすことはできません。」と結論づけています。
中島さんは、共産党の政策について「どの政党ようりも保守的」と捉え、「共産党と組むことで左傾化するのではなく、共産党の政策を取り組むことによってこそ、本来の保守へと接近するという逆説が存在するのです。」と述べています。
中島さんは、今後の政権について「立憲民主党が中核となって共産党と共闘する『リベラル保守』政権の樹立こそ、次の課題となります。」と述べています。
次に、中島さんは、「死者の立憲主義」について語っています。
中島さんは、編集者のSさんの死を振り返っています。
Sさんの死後、張り詰めた状況の中で、原稿を書いていた中島さん。
今まで書いてきたことをそのまま書き写した原稿を依頼先に送ろうとした時に、Sさんが背後に現れたと言います。
中島さんは、朝までかかって、一から書き直した原稿を依頼先に送ったそうです。
中島さんは「私は死者となったSさんと、この時、出会い直したのだ。同じ人間同士でも、生者ー生者の関係と、生者ー死者の関係は異なる。死者となった彼は、生者との時とは異なる存在として、私に模範的な問いを投げかけてくるようになったのだ。私は、死者となった彼と共に生きて行こうと思った。彼との新たな関係性を大切にしながら、不意に彼からのまなざしを感じながら、よく生きていくことを目指せはいいのではないかと思えた。」と語っています。
以前、奥野修司さんの「魂でもいいから、そばにいて」という本を取り上げました。
東日本大震災で家族を亡くした遺族が、霊となって現れた体験を綴った作品です。
遺族の方々は、亡くなった家族と新たな関係性を持って生活しているのだと、中島さんのこの言葉で改めて感じました。
その上で、中島さんは「保守思想は、死者と共に生きることを前提とする。死者の忘却こそが、「今」という時間を特権化することにつながる。しかし、この『今』は過去の死者たちが築き上げてきた膨大な経験知や暗黙知によって支えられている。」と書いています。
私は、大学時代、スキーバス事故で多くの学友を失いました。
これらの学友に背中を押されて生きてきた実感があります。
そして、身近な存在では、祖母の妹だった石川みち枝の言葉は私に少なからぬ影響を与えています。
石川は、満州で戦後を迎え、生後100日の長女を極寒の満州に埋めてきた経験を短歌として残しています。
「おくり火に亡き夫偲び大陸に埋め来る吾子の齢を数ふ」
歌人として凛として佇まいだった石川のことを今も思い出します。
石川のような経験は、二度と繰り返してはならないと私は、時あるごとにこのことを思い起こしています。
石川が私の背中を押してくれている。ようです。
中島さんは、デモクラシーについて「デモクラシーの重要なポイントは、死者の声に耳を傾けることである。私たちは伝統によって死者とつながり、常識によって死者と対話を続けている。独断的サプライズ政治を進める政治家の声よりも、まずは自己の内にこだまする過去の声を受け止めることからデモクラシーを立て直すべきではないだろうか。」と書いています。
中島さんは、憲法について「死者の声と経験に謙虚に耳を澄まし、過去と現在の地平を融合させた結果として表現された国のかたち。これが憲法の本質である。」「憲法改正とは、単なる文言のテクニカルな変更ではない。それは自国の死者たちとの交流を意味する。先人たちが積み重ねてきた歴史を謙虚に受け止め、そのつながりを実感しつつ、未来への橋渡ししていくプロセスが憲法改正である。」と書いています。
私は、石川らの思いを謙虚に受け止めるならば、憲法を、取り分け9条を変える時ではないと思います。
中島さんの思考から多くの事を学んでいます。
引き続き、中島さんから学んでいきたいと思います。
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