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コミック版「戦争は女の顔をしていない」

 鎌田實さんの「忖度バカ」という本に、彼女の事が取り上げられていて、彼女の書作「戦争は女の顔をしていない」を読んでいることをブログに書きました。
 2019年4月より、webコミック誌ComicWalkerで作画小梅けいとさん、監修速水螺施人さんにより「戦争は女の顔をしていない」が連載されています。
 そして、2020年1月に、この連載のコミック1巻が、2020年12月にコミック2巻が発売され、先ほど読み終わりました。
 そして、再び、スヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんの「戦争は女の顔をしていない」を読み始めています。
 コミックの最終ページに、監修の速水法螺施人さんの解説が掲載されています。
 この物語の舞台は、1941年に始まったソ連とドイツによる戦争(独ソ戦争)です。速水さんは、「この戦争で、ソ連は軍人、民間人あわせて2700万人を失っている。もとの人口は1億9千万人だった。一方、ドイツの死者は約800万人。ちなみに日本は約300万人を失った。」
 日本国内においても、空襲や原爆などで民間人を含めて多くの死者が出ましたが、物語の舞台であるソ連で2700万人の死者が出たことに驚きました。この独ソ戦争で、両国の人たち3500万人が亡くなったことに更に驚きました。
 コミック2巻の冒頭に馬が人間の死体の上を走ることを観た元女性兵士の回想シーンがあります。
 「馬というのは決して死体を踏みつけたりしないの、でもスターリングラード近郊ではあまりにたくさんの死体が転がっていて・・・馬ももうよけられないです。味方の死体は集めたけどドイツ軍の死体がいたるところに転がっていた 車輪の下でこういう死体の頭蓋骨が折れる音が聞こえていた・・・」
 いかに多くの人々がこの戦争で命を落としたのかがよく分かります。
 コミック2巻の最終ページで、監修の速水螺施人さんは、スターリン時代の弾圧と統制について書いています。
 「スターリン時代は弾圧と統制の時代でもあった。工業の発展は農村を犠牲にすることで進められ、農民の生活はともすれば帝政時代より厳しかった。1930年代初頭のウクライナではホロドモールという人為的な大飢饉さえ起き、多くの死者が出た。政治的な逮捕者は途絶えず、1937年に最高潮を迎えた大テロルは政府、行政、軍、党のみならず社会のあらゆるところで荒れ狂い無数の者が処刑され、あるいは強制収容所に送り込まれた。女性兵士たちの回想でも、身内が巻き込まれた者の話が出てくる。密告が奨励され、誰もがまさかと思いつつ逮捕される可能性におびえた。」
 コミック2巻の冒頭は、「戦争は女の顔をしていない」原作者であるスヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんが元女性兵士のインタビューを続け、本にまとめる動機について描かれています。
 その中で「人間は戦争の大きさを越えている」という表現が出てきます。
 岩波現代文庫からこの辺りを引用します。
 「大きな思想にはちっぽけな人間が必要なので、大きな人間はいらない。思想にとって大きな人間というものは余計で、不便なのだ。手がかかりすぎる。私は逆にそういう人間を探している。大きな内容を秘めたちっぽけな人たちを捜している。虐げられ、踏みつけられ、侮辱された人たち-スターリン獄とあの裏切り行為をくぐってきて、勝利した人たちを。奇跡を起こした人たちを。そういう人たちからこの勝利を奪い取ることは誰にもできない・・・」
 原作の冒頭に、ウクライナの飢餓の中で、厩舎で馬糞を盗んで食べた回想が出てきます。コミックにも描かれています。
 スヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんは、「人間は戦争の大きさを越えている。人間のスケールが戦争を越えてしまうような、そういうエピソードこそ記憶に残る、そこで歴史を越えたもっと強いものが支配している。わたしは視野を広げて、戦争という事実だけではなく、人が生きるとは、死ぬとはどういうことなのか。その真実を書かねばならない。」と述べています。
 私たちの国で、安保法制=戦争法が強行された5年前頃から、改めて、日本国憲法に明記されている「個人の尊厳」の重要性が注目されています。
 戦争もスターリンの時代の政治も「個人の尊厳」が著しく虐げられていたのではないでしょうか。
 スヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんが言う「歴史を超えたもっと強いものの支配」とは「個人の尊厳」が大切にされる社会のルールではないかと感じました。
 小梅けいと作画の「戦争は女の顔をしていない」を1巻2巻を読み、改めて、
スヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんが本作で書きたかった中心点を理解することが出来ました。
 改めて、今の日本のコミック界でスヴェトラーナ・アクレシェーヴィチさんの「戦争は女の顔をしていない」を原作として選んだ勇気に感服しました。
 コミック3巻の発行を待ちながら、原作の再読を続けたいと思います。
 是非、多くの皆さんにコミック「戦争は女の顔をしていない」を手にしていただきたいと思います。
 年末年始の時間を利用して、読書にも励もうと思います。

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